『花灯大丈夫?』

傷跡だらけの両腕から、顔を上げれば、来未の心配そうな声が、天井から聞こえてくる。

「……心配いらないよ」

花灯は、捲り上げたシャツを戻すとテレビの画像に目を移した。来未は、俺の向かいに座って、パソコンを打つ俺を横目に、よくテレビから流れるニュースを見ていた。目の前の画面からは、紅蓮の炎が燃え上がっている。

ふと、来未との会話が頭の片隅から蘇る。

あれは、此処に連れてきたばかりの頃だった。原因不明の火災で人が1人亡くなった事件が、テレビのニュースから流れていた。遺体の損傷が激しく、性別は、おろか、原因特定も難しいのではとニュースキャスターが取り上げていた。

『そうだよね……死んじゃったら、話せないし、燃えちゃったら、性別分かんないよね、どうやって特定するんだろ』

ルイボスティー片手に、来未が、ニュースを見ながら、小さく呟く姿が、脳裏に浮かんだ。

花灯は、パソコンの画面から勢いよく、顔を上げる。

「それだ……」

話さなければ、声を出さなければ、まさか、男のフリをしてるとは、誰も思わない。

花灯自身も性別を偽って受け取りに来る客がいるとは思っていなかった。胸には晒しでも、巻けば問題ないだろう。間違いない。  

花灯は、硬く拳を握りしめた。


ーーーー古林洋介を消した、ハンドルネーム『LOVE』は、男に変装した、志田愛瑠だ。