アイツの隠れ家である、築50年の古民家を目指しながら、志田愛瑠は、曇天の空を眺めた。

胸には晒しをまき、ジーンズに黒い薄手の長袖のパーカーを身に纏い、髪は一つに纏めてパーカーのフードを深く被っている。

晒しを巻くのは自分を男に見せる為だ。

防犯カメラの位置は把握しているつもりだが、こうしていれば、万が一、どこかの防犯カメラに自分が映りこんでいたとしても、特定に至る可能性は少ない。

背負っているリュックの中には、茶色の紙袋を入れてきた。

ある人物達を処分する為に。


「一雨きそう……」 


ーーーー雨は嫌いだ。

嫌でも思い出す。兄の志田大樹が姿を消したのも、こんな曇天の空から、やがて雨粒が落ちてきた夏の日だった。

「大樹……何処にいるの?」

大樹が、居なくなってから、自分は変わってしまった。罪と血で汚れた掌は、どんなに洗っても、どんなに雨に打たれても、消えることはない。

ジーンズのポケットの中のスマホが震えると、花火屋からのメールが届いている。

『欲の遂行のご健闘をお祈り致します』

メールは。読み終わると共に、数秒であとかたもなく消えた。