『病院と警察に行こう……』

蛍は、震える身体で首を小さく振る。

『……こんなことっ……俺は黙っておけない……』

『ダメだよ!花灯!』

『犯人を俺は』

『お願い、やめて』

自分を見上げた蛍は、泣きながら、懇願する。

『俺は……人を殺すことに対して、何の感情もないから……だから』

『だから……ひっく……花灯と家族になりたいん……だよ……お腹の……赤ちゃんと……』 

『赤……ちゃん?』

その時、神様は、残酷だと思った。こんな風に知らされなければ、蛍の言葉に、お腹の子供に、自分の心は、もっと素直に愛を感じられたかもしれない。

神様なんて、いないとずっと思っていたから。蛍と出会うまではずっと、独りぼっちだったから。

『お腹にいるの。私と……花灯の赤ちゃんだよ……まだ、病院行ってないから……わかん、ないけど、春には……花灯は、お父さん、なんだよ』

『……俺が……お父さん……?』

『だから……今日のことは……忘れて……私と赤ちゃんと花灯……三人で幸せになろう』

そう言って、蛍に泣きながら、抱きしめられた温もりが、今も身体から離れない。



「幸せになろう、か……」

ふっと、花灯は笑った。

こんな自分に与えられた、ささやかな幸せなど、もうとっくに、壊れてしまった。

蛍のいない世界など、生きる意味も価値もない。

「もうすぐ、そっちに逝くから……」

花灯は、線香花灯を手に取ると、両手で包み込んだ。