(けい)だよ」

「Kさんすか、有難う御座います」

ここまで痕跡を残しておけば、近く、古林と志田愛瑠は接触する筈だ。そして、志田愛瑠は、Kという男について調べるだろう。

(僕まで辿りつけるかな)

タイムリミットは、すぐそこまできている。

千夏は、古林に背を向けてると右手をあげ、扉へと向かった。

扉をカランと閉めれば、目の前には地上への階段が見える。無機質なコンクリの階段を登っていくと、男が1人降りてくるのが見えた。

狭い階段の真ん中で、互いの体を縦にしてすれ違う。すれ違い様に、ふわりと漂う互いの香りに、千夏は眉を寄せた。

(何だーーーー?)

僅かな違和感と、記憶の切れ端が、千夏の足を止める。

千夏は、半身振り返る。

ジーンズに、黒のロンT、顔は深く被られたキャップで見えない。

(真夏にロンT……)

男は、こちらを振り返る事もなく、バーの扉に吸い込まれていく。

(……そういうことか)

緩む口元にキュッと力を入れて、千夏は、夜のネオンに照らされた街へと溶け込んでいった。