電気も点けずに、一階のガラス戸越しから、ぼんやりと眺めている満月に向かって、来未は、小さく溜息を吐き出した。
ふいに、スマホが震えて光り、ラインニュースに目をやれば、ここから、少し離れた場所で住宅火災があったことを告げている。
ーーーー花灯は、まだ帰ってこない。
来未が、花灯からの指示で百貨店に行った際、一度だけ接触した、波多野文香が、先日、公園で水死体で発見されたのをニュースを見て驚いた。そして、同じ日、波多野の上司の西川翔子と、波多野の恋人の、高瀬章介が、高瀬のマンションの一室で死んだ。警察の発表では、三人共、自殺で間違いないとのことだった。
「あの西川って女、花火受け取りに来てたな……」
百貨店で波多野に会って、スカートを購入した際、売り場に、ピンクのプリーツのスカートが新作で並んでいたのを思い出す。
そのピンクのプリーツのスカートを履いて、花火を片手にウキウキと帰る西川を来未は、2階の窓から見かけていた。