「へぇ、僕にお説教しにきたんだ?」

千夏は、花灯の頬に触れると、その綺麗な顔についた頬の傷跡を親指の腹でなぞった。

「僕は、彼女を、旦那からの、暴力から救ってやりたくてね、お前もそうだろ?……暴力は、受けている者からしたら、どんなに愛していても、やがて、殺意に変わる。人間なんて、そんなもんでしょ。愛情は、殺意と紙一重。愛していればいるほどね」

千夏は、薄い唇を引き上げると、花灯の頬から手を離した。

「両親思いの花灯なら分かるでしょ?」

花灯は、切長の瞳を真っ直ぐに突き刺すように千夏を見つめ返す。

「俺は、両親のこと愛してなんて、いなかった……愛された記憶なんてない」

「だろうな。だから、お前は、お前を虐待してたクズ親を、さっさと殺して、15歳で少年院ぶちこまれたんだもんな」

花灯は、何も言わずに黙ってこちらを見ている。千夏は、スラックスのポケットに手を突っ込みながら、ゆっくりと、口を開いた。

「愛された記憶がないか……なぁ、だから、蛍のことも見殺しにしたのか?」

ワザと蛍の名前を出した瞬間に、花灯の目つきが変わるのが分かった。

胸元に、ぶら下がっていたネクタイごと花灯の掌で締め上げられる。

合わせた視線は憎悪のみを讃え、花灯の瞳は、一瞬で辺りの闇に混ざって染まっていく。