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二度も雨に打たれて、冷えた身体を再び温めることもなく布団に潜り込んだせいで、翌日の明け方に目が覚めたときの倦怠感は風邪特有のそれ。
重い身体は引き摺ることさえも困難で、ベッド脇の棚にいくつか置いてあったお菓子を齧るけれど、渇いた喉に張り付いて咳込んでしまう。
飲み物や薬はこの部屋にないのだから、どうしたってベッドから這い出さなければいけない。
横にふらつきそうになると前のめりを意識するけれど、そうすると顔面から転びかけ、背を反ると後頭部から倒れてしまう気がして、どこに力を入れていいのかがわからない。
壁に沿って、ドアノブを捻り伸し掛るように押し開くと、こちらに背中を向けて玄関に立つ友紀さんがいた。
声をかけていいものかと悩んで、ぼうっと眺めていると、気配か、それとも荒い息のどちらでわたしに気づいた友紀さんが振り向く。
「花奏? ちょっと、どうしたの」
「ただの風邪だから大丈夫」
「大丈夫じゃないでしょう。熱は?」
履いたばかりのパンプスを脱ぎ捨てて駆け寄る友紀さんがわたしの額や首筋に触れる。
部屋を出る前に耳を澄ませて物音を確かめるべきだった。
友紀さんを引き留めてしまっていることへの申し訳なさから、へらりと笑って見せるけれど、口角を上げることにさえ疲労を感じる。
「それは、無理してるときの笑い方」
「しんどいけど、薬飲むし、悪くなるなら病院に行くから平気」
たかが風邪で友紀さんを休ませる気はない。
休息はとってほしいけれど、わたしの看病なんて手間を押し付けるような意味合いではない。
「いつでも連絡していいからね。今日は葵衣がいるから、辛くなったら寝てても叩き起こして」
「……葵衣、いるの?」
昨日、わたしが部屋に入ってすぐに帰ってきたことは知っているけれど、夜中に出て行ったと思っていた。
葵衣のバイトのシフトは、もう随分と長く聞いていないから、今日が休みだということも知らなかった。
「いるよ。ひとりじゃないからね」
「友紀さん、わたし子どもじゃないよ」
「花奏が風邪なんて久しぶりだから、つい」
汗の滲む額に引っ付いた前髪を軽く整えて、友紀さんがわたしの頭を撫でる。
小声で、いってらっしゃい、と言うと後ろ髪を引かれるように何度か振り向きながら出かけていった。