いじわるな質問に孫娘は泣きそうに眉を下げたが、気を取り直して説明した。

「今お召しになっている秋物のジャケットとスカートのセットアップは、祖母・絹子の好みで仕入れられた商品かなと思いまして。祖母もその柄がとても好みでよく着用していました。それに第一、絹子がまだ健在だった十五年ほど前の流行のデザインです。
 また、お話からすると、もしかしてうちをご贔屓にされ、他店はご利用されていないのではないかと思ったものですから」

 口調が絹子さんよりもずいぶんと堅苦しいけれど、最高のコメントだと賛辞を送りたい。
 あっぱれ、と深くため息をついた。

「さすが孫ね」
「……ありがとうございます」

 これくらい長男の嫁が頭の回る子だったらな、と一瞬思いかけて、いやあの子は変わってしまったんだったと思い直す。

「……嫁とうまくやっていけるかしら」

 ほろりとこぼれた不安。
 もう先は長くない。世話をかける日は遠い未来のことではないのだ。
 それまでに嫁と和解しておきたいのだ。

 結衣さんはうんうんと軽く頷いた。
 大丈夫ですよ、ではなく、聞いていますよ、のサインだろう。

「本当に大人しい子だったのよ、これまでずっと。節目節目で私が口出ししても、絶対に否とは言わない気立てのいい子だったの。付き合いやすい嫁だと思っていたのに」

 はあ、とため息をつく。

「私はこの年までずっと夫や姑に大人しく仕えてきたの。そうは見えないだろうけど、良妻賢母だって近所じゃ評判なのよ。一家の大黒柱は父親だって言うけれど、そんなの大嘘。夫を支え子どもを導く妻かつ母の存在こそが家のかなめ。
 お嫁はそんな私の気持ちをわかってくれていると思っていたのに。いつでも素直で、だからますますどうすれば家政が順調に運ぶか事細かに助言したくなってしまった。
 だけど本当は心の中では違っていたのね――」

 どこまでいってもただの独り言。

『そんなことないですよ』だとか『あなたの考えは間違っています』だとかそんな反応はいちいち求めていなかった。
 ただ呟きたいだけ。

 そこのところを押さえているのか、結衣さんは何も言わない。しかし逃げることもなく正面のソファに座ってくれている。

 うっとうしいだろうが、どう思われても構わない。
 私は話を続けた。老婆の独り語りだ。

「彼女が働きたいと言い出したときは腰が抜けたわ。今さら一体何をして働くっていうのよ。息子が稼いでくれているのだから、その収入で十分子どもたちを育てていけるじゃない。
 ……そう言うとね、こう答えるの。『今からでも遅くはありません』って。なかなか言い返すこと。
 ああ、もうこの話、絹子さんに聞かせたくて仕方ないわ」

「祖母とは仲がよろしかったんですね。生前はお世話になりました」

「絹子さんとは服の話で大いに盛り上がったのよ。こう見えて私、神戸の洋裁学校にいたことがあるの」

「へえ、洋裁学校を。……ということは……」