イトと商売の話をすることは、実は今まであまりなかったのだ。
これまでは日常の些細な出来事や雑談をわたしが一方的に語りかける関係性だったから。
今回ようやく真剣に店の仕事をすることになって初めてイトが商売のイロハを口にするのを耳にした。
「もっと俺を崇拝するべきでは?」
「ナルシストの化け猫なのに?」
「あ、そういえば山帰りのお客さんにお前は余計なことを」
あれか、褒めると調子に乗るってやつね。
「事実じゃん、美形だってちやほやされて、絶対否定しない」
「猫の姿だと否定しようにもしゃべれんからな」
言い訳しつつ、涼やかな顔。絶対現在進行形で自分は美形だと思っているはずだ。
「で、イトは何歳なの?」
先ほどのお客さんに問われたとき、適当な年齢を答えればいいものを、つい口ごもってしまった。
化け猫、と口走ってしまうだけあって、イトは全く年を取らない。
人間の姿になったときの青年姿は先述の通りだが、猫の容貌の時でさえ年を重ねない。
いつまでたっても美麗な白猫、といえば神々しい存在にも思えるけれど、どうしてそんな猫がうちの近所をほっつき歩いているのだか。
例えば京都や奈良みたいに、何か曰くのある土地ならこういう猫はいてもおかしくない。
でもこんな山間部には、古くからの言い伝えや神話伝承の類いなど何も残されていない。
「イトの本当の姿は、ヒトなの、猫なの、どっち?」
「さあ」
子どもの頃から幾度となく問い続けてきたことだが、いつもこの調子。
「商売の神様?」
「だから招き猫といっているだろう」
納得がいかない答えだな。
この店の正式な店主であり、わたしの母である木綿子は、イトのことをただの野良猫だとしか思っていないようだ。
どうやらわたしが赤ん坊のころからこの店の周辺に現れたらしい。
「イト」という名前は自然発生的に生じた名前だとか。
しかしそこには奇縁らしきものを感じ取ってしまう。
なぜかというと、わたしの女系は何かしら布や衣服に関する名前が付けられているのだ。
祖母は絹子、母は木綿子、そしてわたしは結衣。
その系譜に近しい名前を持つ、イト。
ますますイトの出自がよくわからない。
悪い猫ではないことは確かなのだけれど……。
これまでは日常の些細な出来事や雑談をわたしが一方的に語りかける関係性だったから。
今回ようやく真剣に店の仕事をすることになって初めてイトが商売のイロハを口にするのを耳にした。
「もっと俺を崇拝するべきでは?」
「ナルシストの化け猫なのに?」
「あ、そういえば山帰りのお客さんにお前は余計なことを」
あれか、褒めると調子に乗るってやつね。
「事実じゃん、美形だってちやほやされて、絶対否定しない」
「猫の姿だと否定しようにもしゃべれんからな」
言い訳しつつ、涼やかな顔。絶対現在進行形で自分は美形だと思っているはずだ。
「で、イトは何歳なの?」
先ほどのお客さんに問われたとき、適当な年齢を答えればいいものを、つい口ごもってしまった。
化け猫、と口走ってしまうだけあって、イトは全く年を取らない。
人間の姿になったときの青年姿は先述の通りだが、猫の容貌の時でさえ年を重ねない。
いつまでたっても美麗な白猫、といえば神々しい存在にも思えるけれど、どうしてそんな猫がうちの近所をほっつき歩いているのだか。
例えば京都や奈良みたいに、何か曰くのある土地ならこういう猫はいてもおかしくない。
でもこんな山間部には、古くからの言い伝えや神話伝承の類いなど何も残されていない。
「イトの本当の姿は、ヒトなの、猫なの、どっち?」
「さあ」
子どもの頃から幾度となく問い続けてきたことだが、いつもこの調子。
「商売の神様?」
「だから招き猫といっているだろう」
納得がいかない答えだな。
この店の正式な店主であり、わたしの母である木綿子は、イトのことをただの野良猫だとしか思っていないようだ。
どうやらわたしが赤ん坊のころからこの店の周辺に現れたらしい。
「イト」という名前は自然発生的に生じた名前だとか。
しかしそこには奇縁らしきものを感じ取ってしまう。
なぜかというと、わたしの女系は何かしら布や衣服に関する名前が付けられているのだ。
祖母は絹子、母は木綿子、そしてわたしは結衣。
その系譜に近しい名前を持つ、イト。
ますますイトの出自がよくわからない。
悪い猫ではないことは確かなのだけれど……。