休暇1日目。

私は旅の準備を整えて、日が昇るよりも早くに屋敷を出発した。
裏地のない濃紺の単衣(ひとえ)に、手甲に脚絆。菅笠に杖。草鞋の紐もしっかりと縛って、歩行の妨げとなるものは何も無い。

神社参りもそうだけど、“歩くこと”も私の気を晴らす手段のひとつ。
日々女中仕事で鍛えられているから、足腰の強さには自信がある。昼前には目的地の神社へ着けると思う。

神社までの経路は、毎年決まった道を歩いている。平坦で歩きやすい道や、完全に獣道と呼べる険しい道まで様々。
何度も歩いているから今更迷子にはならない。むしろその過酷な道を踏破するのが、旅の醍醐味だ。


町を抜け、人気のない林を進んでいく。
そのまましばらく歩いていると、やや開けた道に出た。

「あ!」

道の傍らに、見慣れたお地蔵さんが一体立っていた。

私の膝上くらいの高さの、小さめのお地蔵さんだ。小さな手と手を合わせて優しげな笑みを浮かべてらっしゃる。このお地蔵さんを見かけると、必ず同じように手を合わせるのが、私の通例だ。

正面にしゃがみ込み合掌して、目を瞑る。

「…どうか、道中お守りください。」


お地蔵さんは石だから、当然お返事が貰えるはずもない。そんなことは分かってる。

…じゃあなぜ、


「任せなさい。僕が守ってあげましょう。」


“その声”はすぐそばから聞こえてきたのだろう?