ローズは目を輝かせ、頬を染めてリュカの元へと来ると恭しく挨拶をする。少し後ろに立つノアは、ナディアだと気づいたのかナディアのことを凝視して呆然としていた。
当のナディアは、体が硬直してしまったかのように体が動かせず、手に持ったグラスを落とさないようにぎゅっと握りしめ、俯いた。
リュカはナディアを隠すように一歩前に歩み出てローズに向き合った。
「ご無沙汰しております、ジラール公爵令嬢」
「嫌ですわそんな他人行儀な呼び方。どうぞローズとお呼びください――まぁ、シュバリエ公爵さまもご一緒でしたの! 先ほどからみなさんこちらを気にしていらしたので覗いてみれば、お二人がご一緒なら目立つのも致し方ありませんわね」
「いえいえ、今日の注目の的は私とリュカではなく、彼女のようです」
言いながらライアンは、ナディアの肩に手を置いて自身に引き寄せた。ナディアは、俯いたまま、ことが過ぎるのをまだかまだかと待っていたのに……、突然のことに驚いてライアンを見上げる。
やめてくれと目で訴えるも、ライアンは鋭い眼光をローズに向けていた。
顔は笑みをたたえているというのに、その凍てつくような目にナディアは愕然とする。こんなに冷たい表情のライアンを見るのは初めてだった。
「まぁ、確かに見目麗しいご令嬢ですこと。どうりで殿方に落ち着きがなかったのですね。ライアンさまのお連れさまなのですか?」
ふっ、とリュカが鼻で笑った。
その馬鹿にしたともとれる笑いに意を害したローズは怪訝な目をリュカへと向ける。
「ご令嬢、彼女はナディアです」
「っ⁉」
ローズの目は驚きに見開かれた。そして、その目はナディアへと注がれる。ローズがナディアの素顔を見たのは、子どもの頃の話だから、気づかなかったのも無理はなかった。
「……ご挨拶が遅れ、申し訳ありません……ローズさま」
「ナディア……」
ローズの驚きは次第に怒りへと変わり、グラスを持った手がわなわなと震え、今にも中身が零れそうだ。