*
連れてこられたのは、ロスシー伯爵の邸宅だった。今日はロスシー伯爵の手がける貿易事業の創業を祝うパーティで、伯爵夫人はノアの従姉弟にあたるためリュカも毎年出席しているのだと言う。
「比較的カジュアルなパーティなので、そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ」
豪華絢爛という言葉がまさに当てはまる邸宅を前にして、カチコチに固まるナディアにリュカが言った。
(そ、そんなこと言われても……)
ただでさえ仮面がなくて心もとないのに、リュカの親戚にも初めて会うのだからはいわかりました、とはいかない。。依然強張ったままのナディアにリュカは続ける。
「ロスシー伯爵夫妻はとても気さくな方ですしね。まぁ……夫人の方は少々あれですが……」
「あれ、というのは……?」
「毎年会う度に結婚はまだかまだかと言われ……、いつもこのパーティで私に令嬢を当てがってくるので苦手なんです」
「そう……ですか……」
(きっと、家格もリュカさまにふさわしい女性を連れてこられるんでしょうね……)
胸が締め付けられるような痛みが走った。
「でも、今日はエスコートする女性がいる旨を事前に伝えていますから心配せずとも大丈夫ですよ」
「えっ……」
考えていることがリュカに筒抜けで、ナディアはかぁっと顔を真っ赤に染めた。
「あ、あの……、私のことは、放っておいていただいても大丈夫ですので」
「どうして? 恋人のあなたを放っておくはずがないでしょう?」
さぁ、行きますよ、と促されてふたりは会場となる大広間へと歩を進めた。使用人と顔見知りのリュカは顔パスで入場し、辺りを見回すと比較的人の少ない隅へと向かう。既に賑わっている会場の中心には軽い人だかりができていて、恐らくそこに主賓であるロスシー伯爵夫妻がいるのだろう。
リュカは薄ピンク色をしたドリンクが入ったグラスをナディアに差し出した。
「ありがとうございます」
「夫妻はしばらく空きそうにないので食事をして待っていましょう。ここの料理はどれも美味しいですよ」
テーブルに並ぶ料理を少しずつ皿にとっていくリュカの側で、ナディアは冷や汗が止まらなかった。なぜなら、入場してからずっと周りの人たちの視線が突き刺さるように向けられていたからだ。
(リュカさまは有名人ですものね……)
これまで一人で出席していたリュカが女性をエスコートしてきたのだから、みんな物珍しさに注目するのも無理はない。
しかし、それらの視線はリュカだけでなく、ナディアに向けられたものがほとんどだった。
「――ナディ、どうしたのですか?」
「あ……、あの、視線が、気になって……」
「あぁ、みんなあなたの美しさに目を奪われているんですよ」
「そ、そんなはずありません……」
全力で否定するナディアに、リュカは苦笑した。これほどまでに美しいというのに、ナディアは自信がなさすぎた。
「さ、そこに座っていただきましょう」
正直なにも口に入る気がしなかったが、座れるのはありがたいとリュカについて行こうとした時、
「――リュカ!」
声とともにリュカの肩に腕がかけられた。
連れてこられたのは、ロスシー伯爵の邸宅だった。今日はロスシー伯爵の手がける貿易事業の創業を祝うパーティで、伯爵夫人はノアの従姉弟にあたるためリュカも毎年出席しているのだと言う。
「比較的カジュアルなパーティなので、そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ」
豪華絢爛という言葉がまさに当てはまる邸宅を前にして、カチコチに固まるナディアにリュカが言った。
(そ、そんなこと言われても……)
ただでさえ仮面がなくて心もとないのに、リュカの親戚にも初めて会うのだからはいわかりました、とはいかない。。依然強張ったままのナディアにリュカは続ける。
「ロスシー伯爵夫妻はとても気さくな方ですしね。まぁ……夫人の方は少々あれですが……」
「あれ、というのは……?」
「毎年会う度に結婚はまだかまだかと言われ……、いつもこのパーティで私に令嬢を当てがってくるので苦手なんです」
「そう……ですか……」
(きっと、家格もリュカさまにふさわしい女性を連れてこられるんでしょうね……)
胸が締め付けられるような痛みが走った。
「でも、今日はエスコートする女性がいる旨を事前に伝えていますから心配せずとも大丈夫ですよ」
「えっ……」
考えていることがリュカに筒抜けで、ナディアはかぁっと顔を真っ赤に染めた。
「あ、あの……、私のことは、放っておいていただいても大丈夫ですので」
「どうして? 恋人のあなたを放っておくはずがないでしょう?」
さぁ、行きますよ、と促されてふたりは会場となる大広間へと歩を進めた。使用人と顔見知りのリュカは顔パスで入場し、辺りを見回すと比較的人の少ない隅へと向かう。既に賑わっている会場の中心には軽い人だかりができていて、恐らくそこに主賓であるロスシー伯爵夫妻がいるのだろう。
リュカは薄ピンク色をしたドリンクが入ったグラスをナディアに差し出した。
「ありがとうございます」
「夫妻はしばらく空きそうにないので食事をして待っていましょう。ここの料理はどれも美味しいですよ」
テーブルに並ぶ料理を少しずつ皿にとっていくリュカの側で、ナディアは冷や汗が止まらなかった。なぜなら、入場してからずっと周りの人たちの視線が突き刺さるように向けられていたからだ。
(リュカさまは有名人ですものね……)
これまで一人で出席していたリュカが女性をエスコートしてきたのだから、みんな物珍しさに注目するのも無理はない。
しかし、それらの視線はリュカだけでなく、ナディアに向けられたものがほとんどだった。
「――ナディ、どうしたのですか?」
「あ……、あの、視線が、気になって……」
「あぁ、みんなあなたの美しさに目を奪われているんですよ」
「そ、そんなはずありません……」
全力で否定するナディアに、リュカは苦笑した。これほどまでに美しいというのに、ナディアは自信がなさすぎた。
「さ、そこに座っていただきましょう」
正直なにも口に入る気がしなかったが、座れるのはありがたいとリュカについて行こうとした時、
「――リュカ!」
声とともにリュカの肩に腕がかけられた。