「んだとぉ!?」
「やんのかこらあ?」
テーブル席の二人組が口喧嘩を始めたのだ。ナディアは様子を見ていたが、いよいよ取っ組み合いになりかけ仕方なく間にはいった。
「お兄さんたち、喧嘩は外でお願いしますよ~」
極力逆撫でしないようになだめようと近づくナディアを一人が腕で思い切り振り払った。
か細い少女など男の手で簡単に吹き飛んでしまう。
尻もちをついたナディアに、近くにいた客が「大丈夫ですか」と手を差し伸べてくれた。
その手を取ろうとしたナディアは、床に落ちている眼帯に気づきギョッとした。
慌てて手で左目を押さえ、眼帯を拾ってそのまま酒場の裏に逃げ込んだ。
「大丈夫、見られてない。いえ、見られても私だなんて誰も気づかないわ。大丈夫。」
ナディアは自分に言い聞かせるようにして、眼帯を巻きなおし中に戻る。
するとさっきの二人組は奥さんに追い出されたみたいで平穏を取り戻していた。
ナディアは、さっき手を差し伸べてくれた親切な人を探したけれど顔を見たわけではなかったので見つけられなかった。
「明日も頼んだよ」
「おやすみなさい」
今日のお給金を手に握りしめ、ナディアは足早に家へと急ぐ。体はもうくたくただ。
早く帰って体を休めなくては。朝にはパンを焼かなくてはならない。
屋敷へと続く坂道を登りきったところで馬車が屋敷の前に停まっているのに気づいた。
(こんな時間に一体なにかしら・・・)
ナディアは不審に思い、裏庭へと回ろうと一つ手前の角を曲がった。