「こうして、再会できるなんて、本当に懐かしいわ」
「えぇ、これもローズさまがナディアを誘ってくださったおかげです」
「今日はお誘い下さりありがとうございました」
「ーーー本当に、あなたの仮面を見てると、思い出すわその顔の痣を。忌々しい」
「えっーーーー」
突然、吐き捨てるように投げかけられた悪意に満ちた言葉に、ナディアは雷にでも打たれたかのように体が硬直し、その場に立ち尽くした。
「ろ、ローズさま」
隣にいたコレットでさえ驚き、動揺している。そんなことはお構いなしに、ローズはナディアを汚いものでも見るような目で睨みつける。
「もしかして、子どものころ、なんて言われてたか忘れたの?呪い、穢れ、醜い、汚いーーーー。だぁれもあなたに近づきたがらなかったわよね、子どもって残酷よね、素直だから」
視界が狭まり、目の前が、真っ暗になるようだった。耳鳴りがして、息が上手くできない。立っているのもやっとだった。
「コレット、あなたはいつもナディアのそばにいたけど、それは、みんなから避けられるナディアが哀れで仲良くしていただけよねぇ?」
「わ、私は…そんな、」
「そうでしょう?ねぇ?」
ローズの圧に、気おされてコレットは「はい」と頷いた。というよりは、俯いたといった方が正しいかもしれない。
ナディアは、悲しくてコレットの表情は見れなかった。
ーーーそうだ、いつもこうだった。
ナディアは思い出した。
いつも、ローズが率先してナディアの痣のことを口にするのだ。
そうすると、学園で一番権力のあるジラール公爵家のローズに逆らえる子どもなどいなくて、みんな口をそろえてナディアをなじるのだ。
そんな中でも、コレットだけは、ナディアのそばでナディアを慰めてくれていたのに。
「ほらね、あなたは所詮呪われた子。誰からも相手にされないのよ。ベルナール公爵さまだって、あなたを不憫に思って同情してるに違いないわ。愛されてるなんて勘違いしてないわよね?そのほうが身のためよ?それと、あなたがノアさまとこそこそ会ってることをわたくしが知らないとでも思った?悲劇のヒロインぶってベルナール公爵さまだけでなく、わたくしの婚約者にまで媚びを売るなんて一体何様よ!恥を知りなさい、恥を!」
ーーーーパシン、と頬に痛みが走った。ローズに叩かれたのだ、と気づくのに少し時間がかかった。
「早く消えてくださる?…コレット、行きますわよ」
言われたコレットは、何度か振り向きながらもローズの後を追う。
ナディアは、その場に立ち尽くしたまま、しばらく動けずにいた。打たれた頬だけが、ジンジンと痛み、熱を持っているが、それ以外の何もかもは急速に冷えていくのを感じた。
すぅーっと、血の気が引いていくように、足元が真っ暗になって、何も考えられない。
けれども、最後にローズに早く消えろと言われたことだけが頭の中でこだまして、早く帰らなくては、と思うのに、体も動いてくれなかった。
「ナディアさま…?」
ふと、名前を呼ばれて振り返ると、そこには見慣れた人が立っていた。
「公爵さまの…」
いつも、ナディアを迎えに来てくれるリュカの御者だった。
「お迎えにあがりました。旦那様は、お仕事で来られませんが…、もしまだご自宅に帰っておられなければこちらに迎えに行くようにと仰せつかって参りました。行き違いにならず、よかったです」
御者に促され、ナディアは馬車に乗り込んだ。何時に終わるかわからないから迎えはいらないと断ったのにも関わらず、こうして馬車をよこしてくれるリュカの優しさが嬉しくもあり、そして辛かった。
『呪い、穢れ、醜い、汚いーーーー。だぁれもあなたに近づきたがらなかったわよね』
『あなたは所詮呪われた子』
『あなたを不憫に思って同情してるに違いないわ』
ローズの言葉だけが頭の中を何度もこだまし、ナディアに重くのしかかった。
「えぇ、これもローズさまがナディアを誘ってくださったおかげです」
「今日はお誘い下さりありがとうございました」
「ーーー本当に、あなたの仮面を見てると、思い出すわその顔の痣を。忌々しい」
「えっーーーー」
突然、吐き捨てるように投げかけられた悪意に満ちた言葉に、ナディアは雷にでも打たれたかのように体が硬直し、その場に立ち尽くした。
「ろ、ローズさま」
隣にいたコレットでさえ驚き、動揺している。そんなことはお構いなしに、ローズはナディアを汚いものでも見るような目で睨みつける。
「もしかして、子どものころ、なんて言われてたか忘れたの?呪い、穢れ、醜い、汚いーーーー。だぁれもあなたに近づきたがらなかったわよね、子どもって残酷よね、素直だから」
視界が狭まり、目の前が、真っ暗になるようだった。耳鳴りがして、息が上手くできない。立っているのもやっとだった。
「コレット、あなたはいつもナディアのそばにいたけど、それは、みんなから避けられるナディアが哀れで仲良くしていただけよねぇ?」
「わ、私は…そんな、」
「そうでしょう?ねぇ?」
ローズの圧に、気おされてコレットは「はい」と頷いた。というよりは、俯いたといった方が正しいかもしれない。
ナディアは、悲しくてコレットの表情は見れなかった。
ーーーそうだ、いつもこうだった。
ナディアは思い出した。
いつも、ローズが率先してナディアの痣のことを口にするのだ。
そうすると、学園で一番権力のあるジラール公爵家のローズに逆らえる子どもなどいなくて、みんな口をそろえてナディアをなじるのだ。
そんな中でも、コレットだけは、ナディアのそばでナディアを慰めてくれていたのに。
「ほらね、あなたは所詮呪われた子。誰からも相手にされないのよ。ベルナール公爵さまだって、あなたを不憫に思って同情してるに違いないわ。愛されてるなんて勘違いしてないわよね?そのほうが身のためよ?それと、あなたがノアさまとこそこそ会ってることをわたくしが知らないとでも思った?悲劇のヒロインぶってベルナール公爵さまだけでなく、わたくしの婚約者にまで媚びを売るなんて一体何様よ!恥を知りなさい、恥を!」
ーーーーパシン、と頬に痛みが走った。ローズに叩かれたのだ、と気づくのに少し時間がかかった。
「早く消えてくださる?…コレット、行きますわよ」
言われたコレットは、何度か振り向きながらもローズの後を追う。
ナディアは、その場に立ち尽くしたまま、しばらく動けずにいた。打たれた頬だけが、ジンジンと痛み、熱を持っているが、それ以外の何もかもは急速に冷えていくのを感じた。
すぅーっと、血の気が引いていくように、足元が真っ暗になって、何も考えられない。
けれども、最後にローズに早く消えろと言われたことだけが頭の中でこだまして、早く帰らなくては、と思うのに、体も動いてくれなかった。
「ナディアさま…?」
ふと、名前を呼ばれて振り返ると、そこには見慣れた人が立っていた。
「公爵さまの…」
いつも、ナディアを迎えに来てくれるリュカの御者だった。
「お迎えにあがりました。旦那様は、お仕事で来られませんが…、もしまだご自宅に帰っておられなければこちらに迎えに行くようにと仰せつかって参りました。行き違いにならず、よかったです」
御者に促され、ナディアは馬車に乗り込んだ。何時に終わるかわからないから迎えはいらないと断ったのにも関わらず、こうして馬車をよこしてくれるリュカの優しさが嬉しくもあり、そして辛かった。
『呪い、穢れ、醜い、汚いーーーー。だぁれもあなたに近づきたがらなかったわよね』
『あなたは所詮呪われた子』
『あなたを不憫に思って同情してるに違いないわ』
ローズの言葉だけが頭の中を何度もこだまし、ナディアに重くのしかかった。