「それと、ベルナール公爵さまとの事もね。本当に、本当なの?未だに信じられないわ」

 リュカの名前が出されたとたん、周りの他の女性たちもこぞって話に入ってきた。

「私もお聞きしたいわ」
「どうやってお近づきになれたの?!」

 質問攻めをくらい困っているナディアを助けたのはローズ。

「まぁまぁ、みなさん、まだお茶会は始まったばかりなのよ、もっとゆっくりなさって。ナディアも困ってるわ」
「申し訳ございません、こういう場所にあまり慣れておらず…」

 その後はとても和やかなムードでお茶会が進められた。少し肌寒くなったので、場所を移して屋敷の入口付近に設けられた吹き抜けの広間で過ごしていた。久々の再会となったコレットとも話せてナディアも楽しんでいた。ナディアやリュカが心配していたようなことは何もなかった。

 お開きの時間が近づいてきた頃、玄関ホールへと繋がるドアが開き一人の青年が現れたのだった。突然の来客にその場にいた全員の視線が一斉に向けられる。

「おっと、これはみなさんお集まりの所失礼」
「ノアさま!」

 現れた人物は、なんとノアだった。嬉しそうに声音を弾ませたローズが小走りに駆け寄っていく。ノアに会えた事が嬉しいんだろう。

「またお父様に呼ばれたんですの?」
「あぁ、チェスの相手にね。もうご在宅かな?…え?ナディア?」

 背の高いノアは、ローズの頭の上から視線をこちらによこした。名前を呼ばれ、ナディアは軽く会釈を返すとノアは片手をあげて微笑んだ。

「ローズ、ナディアと仲直りしたんだね。嬉しいよ」
「えぇ、今日はこの前のお詫びでお招きしましたの。ノアさまもパーティ以来でしょうし、ご挨拶されますか?」
「…いや、大丈夫。じゃぁ、僕は応接間で待たせてもらうよ。お茶会を中断させてしまって申し訳なかったね、失礼するよ」
「後で、お茶をお持ちいたしますね」

 ノアの姿を見送って戻ってきたローズの表情はどこか浮かない顔だった。

「ローズさまのご婚約者さまでしょう?素敵な方ですね」
「…ありがとう」
「ナディアさまもお知り合いですの?」
「え、えぇ…」
「今日はこれでお開きにしますわ。みなさん、またお会いしましょう。…ナディアとコレットはすこし残ってくださる?」

 ごきげんよう、と挨拶を交わし帰っていく人たちを門の前で見送ってからローズは口を開いた。

「ごめんなさいね、残って頂いて。久しぶりに再会した女学校時代の友人だけで話がしたくなったの」

 門から玄関までの長い庭をゆっくりと戻りながら、三人は並んで歩く。