「いやはや、うちの娘とは違って出来たお嬢さんだ。これは公爵が惚れこんでしまうのも無理はない」

 ジラール公爵は豪快に笑った。ナディアと比べられた事に腹を立てている様でもなく、終始笑顔だったローズが口を開く。

「そうだわ!わたくしもナディアにちゃんとお詫びをしたかったの!今度の土曜日にお茶会があるからいらして?」
「そ、そんなお詫びなど…」
「ーーーあいにく、その日は私との先約が」

 すかさずリュカが阻止しようとでたらめを言う。そのような約束はもちろんしていない。

「あら残念。ではいつなら良いかしら?その前の金曜日の昼間ならどう?公爵さまはお仕事でしょう?」
「えっと…」
「ナディア嬢、ローズのわがままに付き合ってもらえんかね」
「ねっ、お願いっ!ナディア」
「は、はい」

 さすがのリュカでも止めることができないほどに無理やり約束を取り付けられてしまった。

「良かった。では、当日迎えの馬車を送るわね。もちろん手土産など不要よ」
「お二人の邪魔をしてしまいましたなぁ。では、我々はこれで失礼します」

 二人の背中を見送ってからリュカとナディアは歩き出した。気が重い。

「助けられずすみません」

 ナディアの落ち込みを察したのか、リュカが謝る。

「いえ、そんな、謝らないでください。リュカさまのせいではありません」
「心配でなりません。あの高飛車な小娘が反省しているとは到底思えない」

 激しく同意したい気持ちを抑えてナディアは曖昧に微笑む。

「やはり、当日体調が悪いとかなんとか言って断りましょう」
「そんな、日にちまで変えていただいたのに、それではあまりにも失礼です。私は大丈夫ですから」
「ですが…」

 食い下がるリュカをなんとかなだめて話を終わらせたものの、ナディアの気分は少しも晴れなかった。