「~~~っ、酷いです、からかって」
「すみません、つい」
つい、なんだというのだ。
「そうだ、そんなに美味しいなら今度、レオンとシャルロットも一緒に連れてきましょう」
「えっ、良いんですか?きっと喜びます!嬉しいです」
リュカの嬉しい提案に、ナディアは二人の喜ぶ顔を思い浮かべた。こんな街に来たことのない二人だから大はしゃぎで喜ぶだろう。そして、ナディアもこのパルフェがまた食べられると思うと嬉しくなった。
「おやおや、ベルナール公爵ではないか」
カフェを出たところで、声をかけられ二人は振り返った。
「これは、ジラール公爵…とご令嬢のローズ様」
「ごきげんよう、ベルナール公爵さま」
「今日も素敵なお召し物ですね」
褒められたローズは頬を染めて恥ずかしそうにはにかんだ。
「こんなところでお会いするとは奇遇ですなぁ、おや、そちらは、お噂の?」
「リシャール家の長女ナディアと申します。仮面をつけてご挨拶する無礼をどうかお許しくださいませ」
「ははは、構いませんよ。先日はお二人とも娘の誕生日パーティにお越しいただきありがとうございました。なんでも娘が無礼を働いたとか。父の私からも改めて謝罪いたします」
「とんでもないことでございます。ローズ様に不快な思いをさせてしまったのは私の過ちのせい。謝らなくてはいけないのは私の方でございます」
言いながらナディアの手は震えていた。ジラール公爵と言えば、王に近い人間の一人でもあり幅を利かせている貴族。不評は買わないに越したことはない。頭を下げるナディアの背にそっとリュカの手が伸びてきた。その手のぬくもりとリュカの優しさに、震えが少し和らいでいった。