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 とは言ったものの、いざリュカを目の前にするとノアのことを切り出せない自分がいた。

「味はどうですか?」
「とってもおいしいです」

 ナディアとリュカがいるのは、城下町にあるカフェだった。最近流行っているパルフェとかいうスイーツがあると聞きつけたリュカが、甘いものが好きなナディアを連れてきてくれたのだった。二人は、外が見える窓際のソファ席に並んで座ってお茶を楽しんでいた。当のリュカは、コーヒーを注文したのみ。長い足を組んでひじ掛けに片肘をつけたその姿は物語に出てくる王子様そのものだった。少し憂いを帯びたオパールグリーンの瞳は優しく隣のナディアに注がれている。

「リュカさまは、召し上がらないんですか?」

ナディアの問いに少し考えた素振りを見せて、リュカは口を開く。

「では、一口頂きましょうか」
「えっ」
「くれないんですか?」
「あ、あの、スプーンがこれしか…」

 そう戸惑うナディアの耳に口を寄せてリュカが囁く。ナディアにしか聞こえない声で。

「何か問題でも?いつも口づけを交わしているのに?」

 顔がぐんぐん熱を帯びていった。どくどくと心臓がうるさい程に早鐘を打っているナディアなんかお構いなしにリュカは「早く食べさせてください」と促した。ナディアは慌ててパルフェの果物とクリームをスプーンですくってリュカの口へと運ぶ。

「ど、どうぞ」

 差し出したスプーンは。薄く形の整った唇にぱくりと吸い込まれた。その瞬間、周囲からはどよめきがあがる。店内に入った時からリュカは注目を集めていたのだ。ただでさえ女性ばかりの店内に、ひと際目を引く容姿のリュカが現れたものだから周りが放っておくはずがなく、「きゃー」とか「私も食べてほしい」とか「パルフェになりたい」とかなんとか。控えめな悲鳴は、けれどもしっかりと二人の耳に届くほどには叫ばれた。

「これは…甘いですね」
「リュカさまは、甘いものは苦手ですか?」
「苦手ではありませんが、特に好きでもないですね」
「なのに、私のために付き合ってくださりありがとうございます」
「私は、ナディの喜ぶ顔が見られればそれで良いんです」

 にっこりと、笑顔を浮かべてリュカが甘い言葉を放つ。どう返せばいいのか、未だに正解は見えず俯くナディアの真っ赤な頬にリュカが手を伸ばした。指の背でそっと触れ、髪を耳にかける。露わになった耳たぶには、ひっそりと光る赤い石があった。

「着けて貰えて嬉しいです」

 リュカは甘い雰囲気をつくる天才かと思うほどに、己の持つ全ての武器を使って責めてくるようだった。優しいまなざしで見つめて、艶のある低い声でささやき、その美しい指先で撫でて。ここは、外なのに。ナディアは全てに耐えるのに必死だった。

「香水も、思った通りあなたによく似合う」

 周りの悲鳴が聞こえていないのか、それともわざと煽っているのか、リュカは髪を撫でながらナディアの頭にキスを落とした。周りからの羨望のまなざしが刺さるほど痛い。これではせっかくのパルフェの味もわからないではないか。

「りゅ、リュカさま…人に見られています」
「それが何か?」
「…あの、その、恥ずかしい…です」
「えぇ、知っています。…くく」

 我慢できない、と言った風に笑い出したリュカにナディアは頬を膨らませた。