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「だから言ったじゃない、あの公爵さまに限って飽きたなんて無いって」

 怒ったように言ったアリスは、リンゴの皮を器用に剥くとナディアに手渡した。お礼を言って受け取り、ひとかけらつまんで口にすると、シャリっとした良い歯ごたえと程よい酸味と甘みが広がる。

「うぅ…、アリスのその自信はどこから来るの…」

 半分、いや10分の1でも良いから分けてほしいとナディアは切に思った。

「私はナディアの話しか聞いてないけど、控えめに言っても公爵さまはナディアにベタ惚れよ。反対に、どうしてそこまで溺愛されてて自信が持てないのか教えてほしいくらい」

 あー羨ましい、とつぶやいてテーブルに突っ伏した。

「だって、あの公爵さまよ?女性という女性には、きっとああいう感じなのよ…それに、これは単なる契約だし…」
「それまだ言ってる」
「そ、そもそもよ?好きとか言われてない」

 ナディアのことを自分のものだと言ってはいるけれど、それはペットとか所有物みたいなそういう類の感覚に近い気がしていた。

「それが公爵さまからの誕生日プレゼント?」

 右耳に着けた赤いピアスにアリスの視線が注がれる。昨日帰ってきてから早速着けたのだった。

「これは、公爵さまがいつも着けていらっしゃるピアスの片割れなの」
「なるほど、ナディアに赤って意外なチョイスだなーって思ったのよね。でもよく似合ってる。でもさ、香水といいそれといい、独占欲強すぎない?ノアの事は知ってるの?大丈夫?」

 ナディアの表情で察したアリスは、大きなため息をついた。リュカとノアが対峙したあの日からリュカは遠くへ行ってしまったうえ、せっかく会えた誕生日には時間も限られておりノアの話題どころではなかったのだ。それに、ごたごたが無くとも、ノアの話をする気には到底なれなかっただろうというのが本音。

「やっぱり、言わなくちゃダメかしら…。別に友達なのだし…公爵さまだって」
「でも、公爵さま云々はナシにしても、ナディアがノアと友達でいたいと思うなら、その気持ちは公爵さまにちゃんと伝えた方がいいんじゃないかな」

 アリスの言うことはもっともだった。

「そうね…、今度ちゃんと話してみる」