「会いたかったです、私も」
ひと月、たったひと月がとても長かった。毎日のように、会えないナディアに思いをはせた。すぐからまる柔らかな栗色の髪、折れそうなほどに細い肩、そして、柔らかく甘い唇。
それらを確かめるように強く抱きしめた。唇を重ねようとしたリュカにナディアは顔を背けて拒絶を表す。
「ナディ」
切なそうなリュカの声が、吐息とともにナディアの耳を掠める。
「ひ、人に、見られてしまいます…」
顔を赤らめ突っ張るナディアの腕を取ると、リュカは馬車へと駆け込むようにして乗り込んだ。
「りゅ、リュカさま…」
「ここなら誰にも見られないから良いでしょう?」
ずるい、と開きかけた唇に、リュカは自分の唇を重ねて黙らせた。久しぶりの口づけは、互いに夢中になるには十分過ぎるほど激しく、そして、甘い。二人の息遣いだけが狭い馬車の中に響き、二人を掻き立てる。
ーーー止められない。
思いが一人先走り、コントロールを失いそうになるのを、リュカは必死につなぎとめる。これ以上は、ダメだと理性が警鐘を鳴らした。これ以上はいけない、さもなければ今この腕に抱きしめている大切なものを失いかねない、と。
リュカの百戦錬磨の口づけが止むと、腰が抜けたかのようにへなへなとリュカの胸に倒れこむ。それすらも愛おしく、リュカの心を鷲づかみにした。
「す、すみません…」
ナディアの謝罪を消し去るように、もう一度その細い肩を抱きしめ、ナディアの頭に頬ずりをする。栗色の髪が柔らかく鼻先をくすぐる。仕事に追われ疲弊していた体と頭が嘘のように軽かった。
リュカはこれまで感じたことのない程の幸福感に満たされていた。
そして確信する、これが愛なのだ、と。
(これが愛でないのなら、なんだというのか)
「ナディ…」
「はい」
「私は、…」
ーーーーあなたを、愛しています。
リュカは、こみ上げてくる言葉を必死に飲み込んだ。確信を得た今、思いの丈を告げて拒絶されるのが、怖かったのだ。
「リュカさま…?」
「いえ…なんでもありません」
「あ、あの、リュカさま」
そう言って、ナディアはようやく力が入るようになった体を起こしてリュカと向き直る。
「お仕事の方は大丈夫ですか?お急ぎだったと伺っていましたのに…」
「問題ありません。気にする必要はありませんよ。それよりナディア…」
リュカはそっとナディアの細い手を握ると自分の鼻先まで持ち上げた。口づけをするように手首に鼻をすり寄せて確かめる。
真っ赤になって俯くナディアを見つめながらも、リュカは急に不安になった。
「香水は、気に入りませんでしたか?あなたも連れて好みを聞いて作ろうとも思ったのですが…、もし気に入らなければ今度一緒に、」
「違うのです…。とても良い香りでしたし、すごく嬉しかったのですが、…その、もったいなくて…」
てっきり香りが気に入らなうてつけて貰えなかったのかと思っていたリュカはほっと息を吐いた。
「なんだ、そんなことですか。無くなったらまた作らせますから、気にせず使ってくださいね。あれは、牽制の意味も込めているんですから」
「牽制…とは?」
「あなたは私のものだ、という他の男への牽制です」
真顔でそんなことを言われるものだから、免疫のないナディアの顔は一瞬でゆでだこになってしまった。返事に困るナディアを、リュカは再び腕の中に閉じ込めた。
ひと月、たったひと月がとても長かった。毎日のように、会えないナディアに思いをはせた。すぐからまる柔らかな栗色の髪、折れそうなほどに細い肩、そして、柔らかく甘い唇。
それらを確かめるように強く抱きしめた。唇を重ねようとしたリュカにナディアは顔を背けて拒絶を表す。
「ナディ」
切なそうなリュカの声が、吐息とともにナディアの耳を掠める。
「ひ、人に、見られてしまいます…」
顔を赤らめ突っ張るナディアの腕を取ると、リュカは馬車へと駆け込むようにして乗り込んだ。
「りゅ、リュカさま…」
「ここなら誰にも見られないから良いでしょう?」
ずるい、と開きかけた唇に、リュカは自分の唇を重ねて黙らせた。久しぶりの口づけは、互いに夢中になるには十分過ぎるほど激しく、そして、甘い。二人の息遣いだけが狭い馬車の中に響き、二人を掻き立てる。
ーーー止められない。
思いが一人先走り、コントロールを失いそうになるのを、リュカは必死につなぎとめる。これ以上は、ダメだと理性が警鐘を鳴らした。これ以上はいけない、さもなければ今この腕に抱きしめている大切なものを失いかねない、と。
リュカの百戦錬磨の口づけが止むと、腰が抜けたかのようにへなへなとリュカの胸に倒れこむ。それすらも愛おしく、リュカの心を鷲づかみにした。
「す、すみません…」
ナディアの謝罪を消し去るように、もう一度その細い肩を抱きしめ、ナディアの頭に頬ずりをする。栗色の髪が柔らかく鼻先をくすぐる。仕事に追われ疲弊していた体と頭が嘘のように軽かった。
リュカはこれまで感じたことのない程の幸福感に満たされていた。
そして確信する、これが愛なのだ、と。
(これが愛でないのなら、なんだというのか)
「ナディ…」
「はい」
「私は、…」
ーーーーあなたを、愛しています。
リュカは、こみ上げてくる言葉を必死に飲み込んだ。確信を得た今、思いの丈を告げて拒絶されるのが、怖かったのだ。
「リュカさま…?」
「いえ…なんでもありません」
「あ、あの、リュカさま」
そう言って、ナディアはようやく力が入るようになった体を起こしてリュカと向き直る。
「お仕事の方は大丈夫ですか?お急ぎだったと伺っていましたのに…」
「問題ありません。気にする必要はありませんよ。それよりナディア…」
リュカはそっとナディアの細い手を握ると自分の鼻先まで持ち上げた。口づけをするように手首に鼻をすり寄せて確かめる。
真っ赤になって俯くナディアを見つめながらも、リュカは急に不安になった。
「香水は、気に入りませんでしたか?あなたも連れて好みを聞いて作ろうとも思ったのですが…、もし気に入らなければ今度一緒に、」
「違うのです…。とても良い香りでしたし、すごく嬉しかったのですが、…その、もったいなくて…」
てっきり香りが気に入らなうてつけて貰えなかったのかと思っていたリュカはほっと息を吐いた。
「なんだ、そんなことですか。無くなったらまた作らせますから、気にせず使ってくださいね。あれは、牽制の意味も込めているんですから」
「牽制…とは?」
「あなたは私のものだ、という他の男への牽制です」
真顔でそんなことを言われるものだから、免疫のないナディアの顔は一瞬でゆでだこになってしまった。返事に困るナディアを、リュカは再び腕の中に閉じ込めた。