「すごい、ごちそう…、これどうしたの?」

 テーブルに並ぶごちそうの数々に驚くナディア。色鮮やかな料理が並んでいた。

「僭越ながら、僕が用意させてもらったんだ」

 そう言ったのは、ノア。

「こいつ、昨日あの後また来たかと思ったら、明日のナディアの誕生日は自分が用意するからって院長に」
「おめでとう、ナディア」
「ノアさま、ありがとうございます」
「ノアもたまには気が利くじゃない、ねぇ」

 こんな時も辛口だ。ツンとしながら言うアリスが可愛くて笑ってしまう。

「ねぇ、はやく食べたい!」

 しびれを切らしたアーチュウの叫びを皮切りにみんなでごちそうを楽しんだ。

「ねぇ、ちゃんと食べれた?なんかあんまり進んでなかったみたいだけど」
「はい、頂きました。でももう、胸が一杯で…」

 本当は、リュカへの不安に押しつぶされそうでそんな気分になれなかったが、せっかくのお祝いの席を台無しにしたくなくて我慢していた。

「ーーー本当に、ありがとうございました。子どもたちもとても喜んでいましたね。本当に、ノア様にはどうお礼をすればよいか」
「ナディア、誕生日のお祝いにお返しなんて必要ないんだよ」

 家まで送ってくれたノアは、片目をぱちりとつむってウィンクしてみせる。

「ってことで、これ」

 ずっと手に持っていた包みを渡されて受け取ると、ずっしりと重みを感じた。

「これは?」
「開けてみて」

 蓋を開けると、そこには大粒のブドウが二房。薄い黄緑色のものと紫色のものが。

「葡萄!」
「好きなんでしょ」

 昨日、用事を思い出したと言って帰ったのは、このためだったのだ。自分なんかのために、食事の手配や好物を探してきてくれるノアの優しさに心があったまった。

「こんなに立派な葡萄は始めてみました」
「あげる。ご家族で食べて」

 ナディアは、久しぶりの好物に心惹かれ、一粒もぎ取ると口に放り込んだ。プチっと皮が弾けてみずみずしい果汁が口いっぱいに広がり幸せな気持ちになる。

「おいひいれす」
「ぶはっ、何言ってるかわかんない」
「ノアらまも。はい、どうぞ」

 嬉しくなったナディアはもう一粒取って、一歩ノアに近づき背の高いノアめがけて手を伸ばす。「えっ、え?」と戸惑いながらも口を開けたノアに葡萄を押し込んだ。