「考えたって仕方ないことよね」
ナディアは、悶々とした気持ちを晴らすように急ぎ足で孤児院へと向かった。
人手の足りていない孤児院では、洗濯から掃除、裁縫、庭や畑の手入れまで一通り手伝った後、日が暮れ始める頃に家路につく。
帰った後も洗濯ものを取り込み、たたみ、仕舞い、夕飯の支度を手伝い、弟たちの寝かしつけをしてようやくナディアはベッドに腰掛けることができるのだった。
「ふぅ、今日もよく働いた」
だが、ナディアの一日はまだ終わらない。
男物の服に着替えを済ませ、仮面を外した。
引き出しから取り出した眼帯を左目に巻く。
栗色の髪を頭のてっぺんで結い上げて帽子を深々とかぶれば、下働きの少年の出来上がりだ。
こっそりと家から抜け出し、下町の酒場へと急いで向かった。