「誕生日パーティはやらないの?」
「我が家にそんな余裕はありませんので、毎年ささやかなごちそうを家族で食べるくらいなんです」
「あれ、公爵さまと過ごさないの?」
「公爵さまは、お忙しいようですし…、言っていないので誕生日もご存じないのではないでしょうか」
リュカの誕生日はいつなのか自分も知らないことに気づいて、今度会ったときに聞いてみようと思った。もし次があるのならば、の話だけれど、と自虐的な考えになっている自分が笑えてきた。
「そっかぁ…」
少し考え込むような仕草を見せてからノアは急に用を思い出した、と言って帰っていった。やっと訪れた心休まる空間で、ナディアは再び本を開いて文字を辿った。
「あ、ナディア、ここにいたの」
「アリス」
「今、ノアが慌てて出ていったけど」
「何か用事を思い出したそうよ」
「なんの用事かしらね。というかあのボンボン、よほど暇なのね。毎日のように来て」
アリスはノアを呼び捨てにするくらい打ち解けていた、と言っていいのかどうかはわからないが。アリスはここぞとばかりにノアをこき使っていた。
そして、役を貰えるのがノアは嬉しいようで、ナディアの目には需要と供給が保たれているように見えていたのでアリスに何か言うようなことはしていない。それに、ノアがそんなことに腹を立てるような人ではないということも今では知っているから。
「ノアさまは、友達が欲しいんだって」
「そんなの、嘘に決まってるじゃない!ナディアに近づこうって魂胆みえみえ。婚約者がいるのにナディアに近づこうとするなんてー、ホントむかつく、あの天然女たらしのボンボンめ、人畜無害みたいな顔しやがって」
次から次へと出てくる悪意の固まりにナディアは笑うしかない。
「ナディアも、公爵さまがいるんだから、あのボンボンとあんまり二人きりにならないようにね!」
「はいはい、わかりましたアリスお姉さま」
「あ、そうだ、明日は朝はリリアーヌさんががパンを焼くから、ナディアはお昼くらいに来てくれれば良いって院長先生が言っていたわ」
「そう、わかった。ありがとう」
それは、誕生日くらいゆっくりしなさいという院長先生とリリアーヌの気遣いだとすぐにわかった。毎年孤児院のみんなでお昼にお祝いをしてくれるのだ。ささやかなプレゼントまで用意して。ナディアはいつも申し訳なく思いながらもみんなの気持ちを受け取る。それは本当に嬉しい事だった。
「公爵さま、あれから手紙も無いの?」
「うん」
「よほど忙しいのね。明日はナディアの誕生日なのに」
「もう飽きたのよ、きっと」
「公爵さまに限ってそれは無いでしょう」
他にもっと良い恋人役を見つけたのかもしれないし、本当に恋人と呼べる人に出会えたのかもしれない。
「ってナディア、なんて顔してるの…」
「えーーー」
つー、と冷たいものが頬を伝った。仮面の下のアイスブルーの瞳から、涙が零れ落ちた。
「や、やだ…、なんで涙なんか」
ハンカチで慌てたように涙を拭っていると、アリスにそっと抱きしめられた。
「泣いて良いのよ、ナディア。悲しいときは泣いて良いの」
アリスの優しい声に、堰をきったように涙があふれ出てきて、ナディアはアリスにしがみつくように泣きはらした。
「我が家にそんな余裕はありませんので、毎年ささやかなごちそうを家族で食べるくらいなんです」
「あれ、公爵さまと過ごさないの?」
「公爵さまは、お忙しいようですし…、言っていないので誕生日もご存じないのではないでしょうか」
リュカの誕生日はいつなのか自分も知らないことに気づいて、今度会ったときに聞いてみようと思った。もし次があるのならば、の話だけれど、と自虐的な考えになっている自分が笑えてきた。
「そっかぁ…」
少し考え込むような仕草を見せてからノアは急に用を思い出した、と言って帰っていった。やっと訪れた心休まる空間で、ナディアは再び本を開いて文字を辿った。
「あ、ナディア、ここにいたの」
「アリス」
「今、ノアが慌てて出ていったけど」
「何か用事を思い出したそうよ」
「なんの用事かしらね。というかあのボンボン、よほど暇なのね。毎日のように来て」
アリスはノアを呼び捨てにするくらい打ち解けていた、と言っていいのかどうかはわからないが。アリスはここぞとばかりにノアをこき使っていた。
そして、役を貰えるのがノアは嬉しいようで、ナディアの目には需要と供給が保たれているように見えていたのでアリスに何か言うようなことはしていない。それに、ノアがそんなことに腹を立てるような人ではないということも今では知っているから。
「ノアさまは、友達が欲しいんだって」
「そんなの、嘘に決まってるじゃない!ナディアに近づこうって魂胆みえみえ。婚約者がいるのにナディアに近づこうとするなんてー、ホントむかつく、あの天然女たらしのボンボンめ、人畜無害みたいな顔しやがって」
次から次へと出てくる悪意の固まりにナディアは笑うしかない。
「ナディアも、公爵さまがいるんだから、あのボンボンとあんまり二人きりにならないようにね!」
「はいはい、わかりましたアリスお姉さま」
「あ、そうだ、明日は朝はリリアーヌさんががパンを焼くから、ナディアはお昼くらいに来てくれれば良いって院長先生が言っていたわ」
「そう、わかった。ありがとう」
それは、誕生日くらいゆっくりしなさいという院長先生とリリアーヌの気遣いだとすぐにわかった。毎年孤児院のみんなでお昼にお祝いをしてくれるのだ。ささやかなプレゼントまで用意して。ナディアはいつも申し訳なく思いながらもみんなの気持ちを受け取る。それは本当に嬉しい事だった。
「公爵さま、あれから手紙も無いの?」
「うん」
「よほど忙しいのね。明日はナディアの誕生日なのに」
「もう飽きたのよ、きっと」
「公爵さまに限ってそれは無いでしょう」
他にもっと良い恋人役を見つけたのかもしれないし、本当に恋人と呼べる人に出会えたのかもしれない。
「ってナディア、なんて顔してるの…」
「えーーー」
つー、と冷たいものが頬を伝った。仮面の下のアイスブルーの瞳から、涙が零れ落ちた。
「や、やだ…、なんで涙なんか」
ハンカチで慌てたように涙を拭っていると、アリスにそっと抱きしめられた。
「泣いて良いのよ、ナディア。悲しいときは泣いて良いの」
アリスの優しい声に、堰をきったように涙があふれ出てきて、ナディアはアリスにしがみつくように泣きはらした。