手紙を貰ってから早1か月が経とうとしていた。
リュカからはあれから音沙汰がなく、もしかしたらまだ仕事が忙しいのかもしれない。時折、もしかして何かあったのでは、と不安がよぎるが、あれほどの方にもし何かあれば父の耳にも入ってくるはずだと思い悪い方に考えるのは止めた。
もしくは、ナディアのことにはもう飽きただけなのかもしれない、という可能性の方が色濃いのではないか、と最近思うようにもなっていた。
リュカが居ないせいもあって、ナディアの日常はリュカに出会う前に戻ったようだった。
ただ一つをのぞいては。
「あ、あの…そんなに見られていると恥ずかしいのですが…」
昼下がり、孤児院での用事が一通り済んだナディアは食堂で本を読んでいた。差し込んでくる日差しがほんのりあたたかく、開けた窓からは涼しげな風が吹いている。
夕飯の支度になるまでの間、リュカが孤児院に寄付してくれた書物の中で目星をつけていた本を読もうと思い立ったのだが、
「僕のことは気にしないで」
ナディアの隣に腰掛けたノアは、テーブルに頬杖をついてナディアをずっと眺めていた。
また来ても迷惑じゃないか、と聞かれたあの日から、ノアは暇を見つけては孤児院に顔を出している。
時にはナディアが居なくても、子どもたちの相手をしてくれたり、用を頼まれたり、アリスやテオの話し相手になったりしていた。
その持ち前の人懐っこさと明るさとで、今ではすっかり孤児院に馴染んでいた。
「気にしないでと言われても無理です、ノアさま」
穴が開くんじゃないかというほど見つめられ、ナディアはたまらず読んでいた本を閉じた。
「何か私にお話でもあるのでしょうか?」
「んー、特にないかな」
「…」
「あ、じゃぁ、好きな食べ物は?」
そういう話ではないのだけれど、とナディアは苦笑した。
「…えっと、強いてあげるならブドウでしょうか」
「嫌いな食べ物は?」
「ピーマンです」
「へぇー意外だなぁ。好きな生き物は?」
「馬です」
「じゃぁ、誕生日はいつ?」
「あ、そういえば、今日は何日でしたか?」
「9月の29日」
「ということは、明日です。すっかり忘れていました」
「えぇ!明日!?」
平和ボケだろうか。いつもならごちそうが食べれる日だからずいぶん前から楽しみに胸を膨らませていたのに。リュカのおかげで定期的にごちそうにありつけているせいで感覚が鈍ってきているのかもしれない。
あ、とナディアはつい先日の母の言葉を思い出した。それで欲しいものを聞いてきたのか。あの時はなんの話かわからず適当に流してしまっていた。
リュカからはあれから音沙汰がなく、もしかしたらまだ仕事が忙しいのかもしれない。時折、もしかして何かあったのでは、と不安がよぎるが、あれほどの方にもし何かあれば父の耳にも入ってくるはずだと思い悪い方に考えるのは止めた。
もしくは、ナディアのことにはもう飽きただけなのかもしれない、という可能性の方が色濃いのではないか、と最近思うようにもなっていた。
リュカが居ないせいもあって、ナディアの日常はリュカに出会う前に戻ったようだった。
ただ一つをのぞいては。
「あ、あの…そんなに見られていると恥ずかしいのですが…」
昼下がり、孤児院での用事が一通り済んだナディアは食堂で本を読んでいた。差し込んでくる日差しがほんのりあたたかく、開けた窓からは涼しげな風が吹いている。
夕飯の支度になるまでの間、リュカが孤児院に寄付してくれた書物の中で目星をつけていた本を読もうと思い立ったのだが、
「僕のことは気にしないで」
ナディアの隣に腰掛けたノアは、テーブルに頬杖をついてナディアをずっと眺めていた。
また来ても迷惑じゃないか、と聞かれたあの日から、ノアは暇を見つけては孤児院に顔を出している。
時にはナディアが居なくても、子どもたちの相手をしてくれたり、用を頼まれたり、アリスやテオの話し相手になったりしていた。
その持ち前の人懐っこさと明るさとで、今ではすっかり孤児院に馴染んでいた。
「気にしないでと言われても無理です、ノアさま」
穴が開くんじゃないかというほど見つめられ、ナディアはたまらず読んでいた本を閉じた。
「何か私にお話でもあるのでしょうか?」
「んー、特にないかな」
「…」
「あ、じゃぁ、好きな食べ物は?」
そういう話ではないのだけれど、とナディアは苦笑した。
「…えっと、強いてあげるならブドウでしょうか」
「嫌いな食べ物は?」
「ピーマンです」
「へぇー意外だなぁ。好きな生き物は?」
「馬です」
「じゃぁ、誕生日はいつ?」
「あ、そういえば、今日は何日でしたか?」
「9月の29日」
「ということは、明日です。すっかり忘れていました」
「えぇ!明日!?」
平和ボケだろうか。いつもならごちそうが食べれる日だからずいぶん前から楽しみに胸を膨らませていたのに。リュカのおかげで定期的にごちそうにありつけているせいで感覚が鈍ってきているのかもしれない。
あ、とナディアはつい先日の母の言葉を思い出した。それで欲しいものを聞いてきたのか。あの時はなんの話かわからず適当に流してしまっていた。