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 リュカの使いの者から手紙と小包を受け取ったのは、ピクニックの日から数日たった頃だった。リュカからの手紙など初めての事で、心が踊る。急いで自室に戻り、まずは小包を開けるとそこには美しい細工の施された小瓶の香水が入っていて、ナディアは早速ワンプッシュ手首の内側に吹きかけてみる。

「あ」

 嗅ぎなれたシトラスがふわりと広がった。

「あれ、でもなんかちょっと違う」

 リュカの香りよりも甘くやわらかい香り。でも甘すぎず、とても良い香りだ。手紙には、仕事で家を空けることになったからしばらく会えない旨と、リュカがいつも使っている香りを女性用にアレンジして作らせたオードトワレを贈るから使ってくれると嬉しいといった内容だった。

「どうしよう、嬉しい」

 今までに貰った贈り物の中でも一番かもしれない。

 コンコン、とドアがノックされ入室を促すと、ナディアの母アナベルが顔をのぞかせた。ナディアの隣に座ると、「あら公爵さまの香りがするわ」と早速気づかれる。

「公爵さまがくださったの」
「まぁ、良かったじゃない。ふふ、公爵さまもなかなかロマンチックなお方ね」
「どうしてです?」

 ナディアの問いに母は「あら知らないの?」と目を丸くさせた。

「男性が女性に香水を贈るのには意味があるのよ」
「意味…」
「そう、この香水を相手がつけることで相手を独占したい、自分を思い出してほしいっていう」
「そ、そうなのですか…知りませんでした。でも、公爵さまにそんな他意はないかと。以前私が良い香りだと言ったので、それで…」

 自分はなにをそんなに否定しているのだろう、と言っている最中に気づく。母を見遣ると、なんとなく嬉しそうな顔をしていた。

「私もお父さんも、とても心配してたの。だって、あの天下のベルナール公爵さまよ?お父さんなんて、「遊びのつもりならナディアに関わらないでくれ」って震えながら言ったのよ」
「えっ、そんなことが…?」

 父はもちろん、リュカからもそんな話を聞いたことは無い。

「公爵さまは、本気だから見ていてくれって。そんな風に言われたら、私ももう何も言えなかったわ」

 でも、と母は続ける。

「今のところは合格といったところかしらね」

 今のところは、なんて言うのが母らしいと思った。「それじゃぁお母さんは仕事にもどります」と言って母は立ち上がる。

「あ、そうだナディア。何か欲しいものがあったら言うのよ」
「はい、わかりました」

 何か用事だったのではないか、と呼び止めようと思ったころにはもう扉は閉じていた。母はいい意味でも悪い意味でも騒がしい人だ。それでも、いつも父のそばで父を支えている母の姿はとてもイキイキとしていて、見ていて幸せな気持ちになる。それと同時に、母のように愛する人と寄り添うことは自分には出来ない、という現実を突きつけられているようで悲しくなる時期もあった。

「本気とは、どう意味ですか、公爵さま」

 シンプルだけれど上質な便箋に綴られた文字をなぞりながら、ここには居ないリュカへと思いを馳せた。