「謝るのは、ナシです」
「え、」
「それより、今日はもてなしてくれるんですよね?そろそろお腹が空きました」
「は、はい!ただいまご用意します!」

 籐でできたピクニックバスケットを広げてランチの準備をてきぱきと始めた。

「お口にあうかわかりませんが…」
「いただきます」

 なんのことはない、手作りのパンに、お気に入りのお肉屋さんのハムと野菜と目玉焼きを挟んだだけのサンドウィッチだ。ナディアの母自家製のマスタードソースがアクセントのピリッとかさわやかな酸味が効いた大好きな組み合わせ。家族でのピクニックや誕生日など特別な日に作ってくれるごちそうのひとつでナディアの好物でもあった。

「…そんなに見られてると食べづらいんですが」
「あ、すみま、…じゃなくて、えっと…ごめんなさい」
「ははっ、それ意味同じです…くくく」

 穴があったら入りたい。自分の馬鹿さ加減にあきれてしまう。

「ううぅ…」
「まぁ、まだごめんなさいの方がマシですね」

 笑いやんだリュカは律儀にまた「いただきます」と言ってサンドウィッチを口にした。口に合わなかったらどうしようかと不安になりつつも、また見すぎだと言われてしまわないように、ナディアもサンドウィッチを頬張った。うん、美味しい。貯めているお金で奮発して買ったハムが美味しすぎる。今頃、みんなも食べてくれてるかな、とナディアは両親と可愛い兄妹を思った。

「とても美味しいです」
「ほ、本当ですか…?」
「本当です」

 本当に、本当なのか…、そう言われても信じられなかったけれど、ナディアの作ってきた食事をリュカはぺろりと平らげてくれた。

「ごちそうさまでした」
「お、おそまつさまでした」

 まただ、とナディアは胸を抑える。優しいまなざしで見つめられると、悲しくなってくる。胸の奥がきゅうっと締め付けられるようだった。

「こ、今度は、ライアンさまもお誘いしたいですね」

 紛らわすように口から出た言葉はそんなどうでもいいことで。

「なぜ、ここでライアンの名が出てくるんですか」

(あぁ、地雷を踏んでしまったようです)

 さっきまでの優しさはいずこへ。みるみる不機嫌な顔になっていく。

「特に、意味は…。ただ、公爵さまの仲のいいご友人のようでしたのでご一緒できれば楽しいのではと思って…」
「私は、あなたと二人が良いんです」

 伸ばされた手が、頬に触れる。宝石のような瞳に見つめられて俯こうとするナディアをリュカが許さない。耳をかすめ、首筋を這う指先。

「あっ…」

 くすぐったさにこぼれた声が恥ずかしくて目をぎゅっと閉じた。