「れ、レオン!?今なんて?!公爵さまを呼び捨てになんてしてはいけないわ!」

 いつどこでいちゃついてるなんて言葉を覚えたのやら。最近、スクールに通うようになってからますます口が達者になった気がする。

「構いません、ナディア。私はそのほうが嬉しいです」
「で、でも」
「レオン、お久しぶりですね。元気でしたか?」

 リュカは、レオンに歩み寄ると膝を折って目線を合わせた。

「うん、元気だよ。リュカはねーねとデートすんの?」
「えぇ、レオンの大事なお姉さまを少しお借りしますね」
「いーよ、でもその代わりお菓子ちょうだい」
「レオン!」

 7歳のレオンに家格など知ったことではないのは致し方ない。
 焦るナディアとは裏腹に、リュカは至って穏やかにレオンと接しているのが救いだった。
 一見、子どもは苦手そうなイメージのリュカだったけれど、そうでもないらしい。

「姉上よりもお菓子ですか、はは。子どもは素直ですね。ちゃんと用意してあるのでご心配なく。馬車に置いてあるので、一緒に取りに行きましょう。ナディア、私はレオンに遊んでもらって待っていますね。用意が出来たら出かけましょう」
「何から何まで申し訳ございません。すぐに支度してまいります。レオン、公爵さまに失礼の無いようにね」
「はーい」

 レオンの気のない返事に不安を感じながらも、ナディアは2人を置いて準備にとりかかった。
 いつものように普段着から、リュカに貰ったドレスに着替える。贈られるドレスが日に日に増えてきたせいで選ぶのにも悩んでしまうくらいだ。
 悩むこともまた楽しいとは、リュカに出会う前のナディアには知らなかった感情だった。
 リュカを待たせてはいけないと思いながらも、髪も結いなおして軽く化粧もしてから準備していた荷物を持って馬車へと向かった。

「あれ、居ない」

 リュカとレオンの姿は無かったので、庭を一回りして探そうと荷物を一旦御者に預けてからレオンがよく遊んでいる裏庭へ足を向ける。かすかに楽しそうな声と共に視界に入った光景に絶句した。

「う、そでしょ…」

 四つん這いになったリュカの背に、レオンとシャルロットがまたがり「あっちにいけー」とか「もっと早く!」などと命令しているではないか。ナディアは全身から血の気が引いていくのを感じた。

「レオン!シャルロット!今すぐ降りなさい!!」