「では、私はこれで失礼します。今日はいろいろなお話が聞けて楽しかったです」
「僕も楽しかったよーナディアちゃん。また遊ぼうね、今度は2人で」
「さ、馬鹿の言うことは気にしなくていいですから、行きましょう」

 リュカの手に促されるように部屋から出て長い廊下を歩いて外へと出た。準備されているいつものリュカの馬車が見えて、ナディアは足を止める。半歩遅れてリュカの足も止まった。

「どうしましたか」

 優しく問うリュカの声に誘われるように、ナディアは勇気を振り絞って口を開いた。

「あのっ、つ、次はいつお会いできるでしょうか・・・」
「え?」
「その、いつも公爵さまに頂いてばかりで、少しでも何かお返しができたら、と・・・思いまして。ご、ご迷惑でなければ、私に、公爵さまをおもてなしさせていただきたいのですが・・・」

 固まる公爵を見て、後悔の念が襲い掛かる。あきれてる、きっと。どうしよう、こんなこと言わなければよかった。

「あ、すみません!忘れてください!雇われの分際で申し訳あーーー」

 気が付けば、リュカの胸に抱かれていた。リュカのシトラスがふわりと香る。

「迷惑なんかじゃありません」
「ほ、本当ですか・・・?」
「えぇ、本当です。まさかナディアから誘ってもらえるなんて思ってもいなくて驚いただけです。週明けには仕事が片付くと思うので、また使いの者に日にちを連絡させますね」

 半歩離れて、リュカはナディアの顔を覗き込むようにして近づくと、そっと唇を重ねた。

「楽しみにしています」
「へ?」

 キスに気を取られていたナディアからは間抜けな声がもれる。リュカはそれを笑いながら、ささやくように耳打ちした。