「えっと・・・その・・・、公爵さまの恋人役としてちゃんとできている自信がなく、今みたいに抱きしめられても、経験のない私にはどうすればよいのか全くわからないのが申し訳なくて・・・」
「・・・なるほど」
そうつぶやいたリュカは「それも悪くないですね」とかなんとか言いながら少し思案したのち再びナディアを腕の中に閉じ込めた。
「公爵さま・・・?」
「やり直しです。こういう時恋人なら、両手を相手の背中に回して抱きしめ合います」
指導されているのだ、と気づいて言われるまま両手をリュカの背中に回した。自分からリュカに触れるのは初めてで、手が震える。心拍数が急上昇を始めた。
「こ、こうでしょうか」
「よろしい」
抱きしめる腕に力が込められ、お互いがより密着する。片方は腰に回され、もう片方の手で髪を撫でられた。その優しさに溢れた手つきに胸が苦しくなった。
「私を見て」
抱きしめられたまま、言われた通り上半身を少し離して見上げるナディア。伏目がちに見つめるリュカと目が合い、そのあまりの色っぽさにドキッとしてしまう。
「私はあなたに恋人になって欲しいとお願いしましたが、私に触られるのが嫌だったら遠慮なく言ってください。嫌だと言ったからと契約を解除したりはしませんし、何より、あなたが嫌がるような事はしたくありませんから」
「い、嫌だなんて、思ったことはありません!公爵さまはいつも私に優しく接してくださいます。私は大丈夫ですので、どうか、公爵さまのなさりたいようにしてください!」
「・・・・」
「わっわた、わたし・・・・何か失礼なことをもーーーー」
慌てたナディアの言葉はリュカの唇に吸い込まれた。とろけるようなキス。唇をついばみ、何度も重ねて深めていくリュカ。
「あ・・・・」
息継ぎの度に漏れる声が自分のものじゃないみたい。
「ナディ、両手を私の首に」
リュカの口づけを受け止めるのに精一杯で、何も考えられず、言われるままリュカの首にしがみついた。
「ナディア」
リュカの艶のあるアルトが、自分の名を甘くささやく。
まるで本物の恋人みたいに。
でも、これは契約だ。忘れてはいけない。勘違いしてはいけない。
これは、社交界一の色男ベルナール公爵のきまぐれに過ぎないのだ。
「ーーーー旦那様、お食事のご用意が出来ました」
ノックと同時にかけられた使用人の声にハッとしてリュカは手を緩めてナディアを解放した。困ったような、申し訳なさそうな顔のリュカに、ナディアはいたたまれなくなった。やはり自分には、百戦錬磨のリュカの相手など上手に出来るわけがない。
「っ、すみません、私としたことが・・・・我を忘れるところでした」
「それは、どういう・・・?」
「さぁ、ランチにしましょう」
リュカの一声で、使用人たちが代わる代わる料理をガラスの間のテーブルに運んであっという間に豪華な食卓が用意された。とても2人で食べきれる量ではない。
「我が家のシェフは、ナディアが来るとなると気合が入るみたいですね。普段私があまり食べないので、やりがいがなくつまらない様です」
「それではまるで私が食いしん坊みたいです・・・」
「少なくとも私よりは食いしん坊でしょう?」
「・・・言い返せません」
「冗談ですよ。ナディアはもっとたくさん食べないといけません。少しやせすぎです。折れやしないか心配になります。毎晩食事を届けさせましょうか?」
「い、いえ!ご心配には及びません!私、こう見えても丈夫なんです。この前も、マグリットさんの牧場の柵を直したり、足をケガした子牛を抱えて牛舎まで運んだりしましたし、シャルロットとレオンを両腕に抱えてぐるぐる回ったりも出来ちゃうんですよ!」
真面目にそんなことを自慢するナディアがおかしかったのか、言い終わるころにはリュカはお腹を抱えて笑いこけていた。
「こ、子牛をですか・・・あははっ、是非見てみたいものですね、くくく」
いつも品よく冷静なリュカが子どものように声をあげて笑っているのが、なんだか別人のようでいてとても新鮮だった。自分のくだらない話でこんなに笑ってもらえるならいくらでも話したいと思えるほどに。
「お腹いっぱいになりましたか?」
「はい、もう食べられません」
美味しい食事と弾む会話で、心もお腹もいっぱいだった。
社交界一の色男は、女性を楽しませる天才のようで、世の女性たちがリュカに夢中になるのも頷ける。
食後に出されたミントティーとミントゼリーを食べながらソファに並んで中庭のダリアを眺めていれば、ゆったりとした時間の流れが2人を程よく包み込んでいた。
開け放たれた窓からはさらりと心地よい風が流れ込んできて頬を撫でていく。ソファにあった手はさりげなくリュカの手に包まれたかと思うと、あっという間に指を絡められていた。
「そろそろ慣れたらどうですか」
「・・・なるほど」
そうつぶやいたリュカは「それも悪くないですね」とかなんとか言いながら少し思案したのち再びナディアを腕の中に閉じ込めた。
「公爵さま・・・?」
「やり直しです。こういう時恋人なら、両手を相手の背中に回して抱きしめ合います」
指導されているのだ、と気づいて言われるまま両手をリュカの背中に回した。自分からリュカに触れるのは初めてで、手が震える。心拍数が急上昇を始めた。
「こ、こうでしょうか」
「よろしい」
抱きしめる腕に力が込められ、お互いがより密着する。片方は腰に回され、もう片方の手で髪を撫でられた。その優しさに溢れた手つきに胸が苦しくなった。
「私を見て」
抱きしめられたまま、言われた通り上半身を少し離して見上げるナディア。伏目がちに見つめるリュカと目が合い、そのあまりの色っぽさにドキッとしてしまう。
「私はあなたに恋人になって欲しいとお願いしましたが、私に触られるのが嫌だったら遠慮なく言ってください。嫌だと言ったからと契約を解除したりはしませんし、何より、あなたが嫌がるような事はしたくありませんから」
「い、嫌だなんて、思ったことはありません!公爵さまはいつも私に優しく接してくださいます。私は大丈夫ですので、どうか、公爵さまのなさりたいようにしてください!」
「・・・・」
「わっわた、わたし・・・・何か失礼なことをもーーーー」
慌てたナディアの言葉はリュカの唇に吸い込まれた。とろけるようなキス。唇をついばみ、何度も重ねて深めていくリュカ。
「あ・・・・」
息継ぎの度に漏れる声が自分のものじゃないみたい。
「ナディ、両手を私の首に」
リュカの口づけを受け止めるのに精一杯で、何も考えられず、言われるままリュカの首にしがみついた。
「ナディア」
リュカの艶のあるアルトが、自分の名を甘くささやく。
まるで本物の恋人みたいに。
でも、これは契約だ。忘れてはいけない。勘違いしてはいけない。
これは、社交界一の色男ベルナール公爵のきまぐれに過ぎないのだ。
「ーーーー旦那様、お食事のご用意が出来ました」
ノックと同時にかけられた使用人の声にハッとしてリュカは手を緩めてナディアを解放した。困ったような、申し訳なさそうな顔のリュカに、ナディアはいたたまれなくなった。やはり自分には、百戦錬磨のリュカの相手など上手に出来るわけがない。
「っ、すみません、私としたことが・・・・我を忘れるところでした」
「それは、どういう・・・?」
「さぁ、ランチにしましょう」
リュカの一声で、使用人たちが代わる代わる料理をガラスの間のテーブルに運んであっという間に豪華な食卓が用意された。とても2人で食べきれる量ではない。
「我が家のシェフは、ナディアが来るとなると気合が入るみたいですね。普段私があまり食べないので、やりがいがなくつまらない様です」
「それではまるで私が食いしん坊みたいです・・・」
「少なくとも私よりは食いしん坊でしょう?」
「・・・言い返せません」
「冗談ですよ。ナディアはもっとたくさん食べないといけません。少しやせすぎです。折れやしないか心配になります。毎晩食事を届けさせましょうか?」
「い、いえ!ご心配には及びません!私、こう見えても丈夫なんです。この前も、マグリットさんの牧場の柵を直したり、足をケガした子牛を抱えて牛舎まで運んだりしましたし、シャルロットとレオンを両腕に抱えてぐるぐる回ったりも出来ちゃうんですよ!」
真面目にそんなことを自慢するナディアがおかしかったのか、言い終わるころにはリュカはお腹を抱えて笑いこけていた。
「こ、子牛をですか・・・あははっ、是非見てみたいものですね、くくく」
いつも品よく冷静なリュカが子どものように声をあげて笑っているのが、なんだか別人のようでいてとても新鮮だった。自分のくだらない話でこんなに笑ってもらえるならいくらでも話したいと思えるほどに。
「お腹いっぱいになりましたか?」
「はい、もう食べられません」
美味しい食事と弾む会話で、心もお腹もいっぱいだった。
社交界一の色男は、女性を楽しませる天才のようで、世の女性たちがリュカに夢中になるのも頷ける。
食後に出されたミントティーとミントゼリーを食べながらソファに並んで中庭のダリアを眺めていれば、ゆったりとした時間の流れが2人を程よく包み込んでいた。
開け放たれた窓からはさらりと心地よい風が流れ込んできて頬を撫でていく。ソファにあった手はさりげなくリュカの手に包まれたかと思うと、あっという間に指を絡められていた。
「そろそろ慣れたらどうですか」