リュカは息を切らしてソファまで小走りにかけてきた。ナディアは、ソファから立ち上がり、リュカにお辞儀をする。

「すみません、遅くなりました。ナディアに会うと思うと何を着ようか迷ってしまって」
「そんな、私ごときに気をつかって下さらなくても、公爵さまは何をお召しになってもとても素敵ですよ」

 まるで乙女のようなリュカのセリフに笑みがこぼれる。くすくすと朗らかに笑うナディアを、リュカはなんの前触れもなく引き寄せて抱きしめた。

「こ、公爵さま?どうしたのですか」
「もう一度言ってください」
「な、何を?」
「今しがた言った言葉です」
「・・・公爵さまは、何をお召しになっても素敵です?」

 頭上で「はぁ・・・」と大きなため息がこぼれた。合っていたのかどうかは謎だけれど、それ以上言われないのなら間違ってはいなかったのだろうか。
 それでも、腕は緩めてはくれなくて、ナディアはそのままリュカの胸に頬を寄せるしかなく、シトラスの香りに覆われた。
 初めて抱かれたリュカの胸はブラウス越しにもわかるほど厚く逞しく、ドキドキが止まらない。

「あ、あの、公爵さま・・・」
「もう少しだけこのままで」
「違うのです・・・、その・・・こういう時、恋人として私はどうするのが正しいのでしょうか?もし、ご指導いただけましたら精一杯お勤めいたしますので・・・」

 少しでも何かお返しがしたい、と考えてナディアが行きついたのがこれだった。自分にはお金もなくリュカに返せるものなど何もない。
 ならば、少しでもリュカの求める「恋人役」を全うしようと思い至ったのだ。
 少しの間の後、緩められた手が両肩に添えられてゆっくりと体が離される。覗き込むリュカは怪訝そうに口を開いた。

「・・・どういう心境の変化ですか?」