「目玉焼き・・・食べたかったな・・・」

 町の中を歩きながらぽつりとつぶやけば、お腹が鳴った。
 孤児院で食べた薄っぺらい食パン1枚では、到底満腹にはなれない。

「ナディアおはよう」
「今日はどこ行くの?」
「帰りにちょっと寄ってくれないかい?」

 すれ違う人々が、ナディアを見かければ気軽に声をかけてくれるこの町がナディアは大好きだった。
 それもこれも、父のリシャール伯爵の所業によるものでもあった。
 己の身を削り領地の人々の暮らしを守ってきた父をナディアは心から尊敬している。

 どんなに貧しくとも、お腹が減ろうとも、心はいつも満たされていた。