ナディアはホールの隅に身を寄せて、窓の外に視線を向ける。
庭に面したホールはほぼ半分がガラス張りになっていて、窓の向こう側もガーデンパーティのように解放されていて、そこには見るからに豪華な色とりどりのドレスを身にまとった若い令嬢が数人集まっていた。
年の頃は同じ位だろうか、綺麗に結わえた髪には宝石やリボンの飾りが着けられ、笑みを作る唇はくっきりと紅がさしていた。
かくいう自分も今は傍から見れば彼女たちとなんら変わらない身なりをしているが、実際はそうではない。
どことなく、後ろめたさを感じてナディアは目をそらした。
「素敵な仮面だね」
突然、後ろから降ってきた低いアルトにナディアは体を強張らせる。
仮面というワードからきっと自分にかけられていることがわかったが、ナディアは出来ることなら誰とも話したくなかった。
聞こえないふりをしていれば諦めてどこかに行ってくれないだろうか、とよこしまな考えをめぐらせる。
「あれ?聞こえなかった?」
そんなナディアの望みもむなしく、声の主は後ろから隣へと近づいてナディアの顔を覗き込んできた。
あまりの近さに、ナディアは一歩後ずさり距離をとる。目を向けた先には、さわやかな笑顔を浮かべた青年が立っていた。
年の頃は同じか少し上か。深いブラウンの髪の下からのぞく瞳はアイリスを思い浮かばせる薄紫色をしていてとても美しい。儚げな雰囲気のリュカとはまた違ったオーラのある青年だなとナディアは思った。
「申し訳ございません、ぼうっとしておりました」
「あはは、そうなんだ。はい、これあげる」
半ば強制的に押し付けられたグラスを受け取って固まるナディアに、青年は笑いながら「安心して、レモネードだよ」という。
「あ、ありがとうございます」
「せっかくのパーティなのに、飲まず食わずじゃもったいない」
どうぞ、と促されてナディアはようやくグラスを口に運んだ。さわやかな酸味と適度な甘みのバランスがちょうどいいレモネードが喉を潤してくれる。ざわつく気持ちをほんの少しだけ落ち着かせてくれた。
「一人で来たの?」
「あ、いえ、付き添いで来ております」
「そうなんだ、こんな綺麗な令嬢を一人にするなんて、酷い人がいるもんだ」
早くこの場から離れたいと思いながらも、目の前で屈託のない笑顔でいる青年を無下にもできず、ナディアは動くことが出来ないでいた。
「あ、ぼくはノア。お見知りおきを」
「ナディアと申します」
「美しいレディは名前まで美しいね」
さっきから綺麗とか美しいとか、歯の浮くような言葉を浴びせてくるのはとりあえずスルーして、ナディアは笑顔でやり過ごす。こんな風にアリスやテオ以外の同年代の人と話すこと自体が久しぶりのことで、どう接するのが正解なのか考えあぐねていた。
「早くここから逃げたいって顔してる」
「そ、そんなことは」
「人と話すのが苦手?」
「こういう華やかな場には慣れていないのです・・・」
「じゃぁ、ローズの誕生日パーティーも初めて?」
ノアの口からさらっと「ローズ」と出たところを見ると彼女と親しい仲なのだろうか。はい、と頷くとノアは「そっか」と返して何か考えている様だった。
「ナディア、ワルツは踊れる?」
「え、いえ、ダンスは苦手で・・・」
「大丈夫大丈夫、僕がリードするから。さ、行こう」
そういうとノアは、ナディアの手からグラスを奪いそのまま手を取りホールの奥へと小走りにかけていく。あまりに突然の事に、ナディアは転ばないようについていくだけで精一杯だった。広いホールの奥の方では、オーケストラの奏でる音楽にあわせてたくさんの人が踊っていた。
「あ、あの、ノアさま、本当にわたし踊りは・・・」
「ノアでいいよ。さまなんて堅苦しいのはごめんだ」
庭に面したホールはほぼ半分がガラス張りになっていて、窓の向こう側もガーデンパーティのように解放されていて、そこには見るからに豪華な色とりどりのドレスを身にまとった若い令嬢が数人集まっていた。
年の頃は同じ位だろうか、綺麗に結わえた髪には宝石やリボンの飾りが着けられ、笑みを作る唇はくっきりと紅がさしていた。
かくいう自分も今は傍から見れば彼女たちとなんら変わらない身なりをしているが、実際はそうではない。
どことなく、後ろめたさを感じてナディアは目をそらした。
「素敵な仮面だね」
突然、後ろから降ってきた低いアルトにナディアは体を強張らせる。
仮面というワードからきっと自分にかけられていることがわかったが、ナディアは出来ることなら誰とも話したくなかった。
聞こえないふりをしていれば諦めてどこかに行ってくれないだろうか、とよこしまな考えをめぐらせる。
「あれ?聞こえなかった?」
そんなナディアの望みもむなしく、声の主は後ろから隣へと近づいてナディアの顔を覗き込んできた。
あまりの近さに、ナディアは一歩後ずさり距離をとる。目を向けた先には、さわやかな笑顔を浮かべた青年が立っていた。
年の頃は同じか少し上か。深いブラウンの髪の下からのぞく瞳はアイリスを思い浮かばせる薄紫色をしていてとても美しい。儚げな雰囲気のリュカとはまた違ったオーラのある青年だなとナディアは思った。
「申し訳ございません、ぼうっとしておりました」
「あはは、そうなんだ。はい、これあげる」
半ば強制的に押し付けられたグラスを受け取って固まるナディアに、青年は笑いながら「安心して、レモネードだよ」という。
「あ、ありがとうございます」
「せっかくのパーティなのに、飲まず食わずじゃもったいない」
どうぞ、と促されてナディアはようやくグラスを口に運んだ。さわやかな酸味と適度な甘みのバランスがちょうどいいレモネードが喉を潤してくれる。ざわつく気持ちをほんの少しだけ落ち着かせてくれた。
「一人で来たの?」
「あ、いえ、付き添いで来ております」
「そうなんだ、こんな綺麗な令嬢を一人にするなんて、酷い人がいるもんだ」
早くこの場から離れたいと思いながらも、目の前で屈託のない笑顔でいる青年を無下にもできず、ナディアは動くことが出来ないでいた。
「あ、ぼくはノア。お見知りおきを」
「ナディアと申します」
「美しいレディは名前まで美しいね」
さっきから綺麗とか美しいとか、歯の浮くような言葉を浴びせてくるのはとりあえずスルーして、ナディアは笑顔でやり過ごす。こんな風にアリスやテオ以外の同年代の人と話すこと自体が久しぶりのことで、どう接するのが正解なのか考えあぐねていた。
「早くここから逃げたいって顔してる」
「そ、そんなことは」
「人と話すのが苦手?」
「こういう華やかな場には慣れていないのです・・・」
「じゃぁ、ローズの誕生日パーティーも初めて?」
ノアの口からさらっと「ローズ」と出たところを見ると彼女と親しい仲なのだろうか。はい、と頷くとノアは「そっか」と返して何か考えている様だった。
「ナディア、ワルツは踊れる?」
「え、いえ、ダンスは苦手で・・・」
「大丈夫大丈夫、僕がリードするから。さ、行こう」
そういうとノアは、ナディアの手からグラスを奪いそのまま手を取りホールの奥へと小走りにかけていく。あまりに突然の事に、ナディアは転ばないようについていくだけで精一杯だった。広いホールの奥の方では、オーケストラの奏でる音楽にあわせてたくさんの人が踊っていた。
「あ、あの、ノアさま、本当にわたし踊りは・・・」
「ノアでいいよ。さまなんて堅苦しいのはごめんだ」