「お待たせしました~。お茶をどうぞ公爵さま」
「ありがとうございます」

 部屋に入ってきた母は、ティーカップをテーブルに置いて腰掛けたところでドアが開き、弟のレオンと妹のシャルロットが入ってきた。

「おかあさま・・・」
「どうしたの2人とも、お庭で遊んでいてって言ったじゃない」
「だって、シャルロットがお腹すいたってー」
「ねぇ、おかあさま、どうしてお家におうじさまがいるの?」

 そう尋ねるシャルロットはレオンの後ろに隠れるように立ち、ナディアと同じアイスブルーの瞳はリュカを見ていた。
 幼子の素直なそのセリフに両親もナディアも、リュカも思わず顔がほころんだ。ナディアは、入口に佇む二人を中へと優しく促した。

「シャルロット、このお方は王子さまではなく、ベルナール公爵さまよ。ふたりともご挨拶して」
「こ、こんにちは、公爵さま」
「こんにちは、シャルロット、レオン。ちょうどいいところにきましたね。そこのブルーとピンクの箱を開けてみてください」

 二人は「王子さま」に言われるまま、今まで見たこともないくらい質のいい紙で包まれた箱を手に取り封を開ける。すると中からお姫さまのお人形と車のおもちゃが出てきて、2人は目を輝かせた。

「ありがとう!えっと・・・、べ、べなー・・・??」
「どういたしまして、リュカで良いですよ」
「リュカさま、ありがとう!」
「公爵さま・・・2人にまでプレゼントをご用意くださったんですか?!」

 驚くナディアに、リュカは「えぇ」とうなずき、満足そうに2人を見つめていた。

「気に入ってもらえるかどうか不安でしたが、喜んでもらえたようで何よりです。あぁ、いけない、シャルロットはお腹が減ったのでしたね。外にある私の馬車で遊んできて良いですよ。中にお菓子もあるのでたくさん召し上がれ。ただし、御者のいうことは守らないといけませんよ」

 リュカの言葉に2人は今貰ったばかりのおもちゃを胸にきつく抱きしめて部屋から小走りに出ていった。

「なんとお礼を言ったらいいのか・・・」
「本当に・・・お返しできるものが何もありませんわ」

 ただただ頭を下げることしか出来ないでいる両親にリュカは向き直ると口を開いた。

「お礼など。私が勝手にしていることです。お気になさらず。それよりナディ、座ったらどうです?」
「あらどうしましょう。ナディアの座るところがないわ」
「そうだな、今廊下から椅子をもう一脚持ってこよう」

 この部屋には、テーブルをはさんで二人掛けのソファが一つ、一人掛けの椅子が二つあり、二人掛けのソファにリュカが座り、一人掛けの椅子に父と母がそれぞれ座っていた。

「あ、では私が持ってきます」
「ナディ、こちらへ」

 見れば、リュカが自分の隣をポンポンと手で叩いている。ここに座れ、と言っていることは明白だが、客人の隣、しかもリュカの隣に座るなど無礼千万。