3度目のキスは、ゆっくりと訪れた。触れるだけのキス。ふに、と柔らかなそれはすぐに離されたかと思うと、角度を変えてもう一度触れて離れた。どっどっどっと体の中から激しく鼓動に叩かれているようだった。
緊張のあまり、固く結んだナディアの唇をリュカの親指がなぞる。何度か優しく撫でていた指は、しびれを切らしたかのように、ナディアの唇を押し開いた。下の歯に触れるリュカの指を感じて体の芯が震えた。
(また、この感覚・・・)
助けを求めるように目で訴えるも、恍惚としたリュカの色香に反対に当てられてしまう。
「そんな表情、他の男に見せてはいけませんよ」
そんな顔って言われても、どんな顔をしているのか、自分ではわからない。
「ん・・・っ」
再び交わされる口づけ。リュカの指に開かれたままだった口は、リュカの舌をやすやすと受け入れてしまう。リュカのそれは、柔らかく、そしてとても官能的だった。ナディアの舌を探したり、歯列をなぞったり、唇をついばんだり、リュカから与えられる刺激にただただ身を任せることしか出来なかった。
座っているのに、倒れそうな感覚になり、思わず両手でリュカの胸に縋ってしまう。そんなナディアを知ってか知らずか、腰に添えられた手に力が入る。
「す、すみません・・・・」
「いえ、私がいけませんでした。これからは加減します」
(なんだかそれって・・・・)
自分がまだまだだと言われている気がして、また顔に熱が集中した。これから先、リュカの相手が勤まるだろうか、と不安がナディアを覆った。
「なんて素敵な殿方かしら」
「まぁ、ベルナール公爵さまよ!こんなところでお目にかかれるなんて!」
街に到着して、リュカと並んで城下町を歩けば、すれ違う全ての女性がリュカに目を奪われているのが疎いナディアにでもわかるほどだった。そして、その視線は次に隣に並ぶナディアへと流れる。
「仮面なんか着けて高飛車な感じよね」
「一体どういうご関係かしら」
視線が突き刺さる。身なりこそ、リュカの揃えたものだからどこぞのご令嬢だが、実際は貧乏伯爵家でリュカに釣り合う家格とはとても言えない。
「迷子になるといけません、手を」
(こんなに輝いている人は見失いません)
心の中でつぶやきながらも素直に手をとった。自分は、今リュカの恋人(役)だから。街中には、たくさんのお店が立ち並び、いままでナディアが見たことのないものもたくさんあり、目を輝かせていた。可愛い雑貨の並ぶお店、庶民向けのアクセサリー専門店、マカロン、ショコラ、パンなど、甘く香ばしい香りもナディアの心を弾ませる。
「欲しいものがあれば教えてくださいね」
リュカにそう言われたが、欲しいなど口が裂けても言うまいと心に誓う。そんなことをリュカの目の前で言ったものならば、店の片っ端から買い集めかねない。それに、ひとつにとどめたところで、その値段はナディアの1日のお給金の額をゆうに超えているものばかり。ナディアにとっては贅沢品以外の何物でもなかった。
しかし、そんなことはリュカもすでに学習済みで、ナディアがものをねだることなどしないことは予想の範疇。美味しそうな匂いのする店や若い女性向けの店などに自ら足を運んでナディアと一緒に店内を物色した。そうすれば、ナディアは気が付くと夢中になって店内の隅から隅まで嬉々として見て回った。ショコラトゥリーやパティスリーでは、味見と言っていくつか買ってはナディアに食べさせた。恐縮しながらも幸せそうに頬張るナディアにリュカはとても満足げだった。
「公爵さま、今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
時間を忘れるくらい楽しく過ごした後、家まで送ると言ったリュカになんとか孤児院の近くで降ろしてもらった。
「私もです、ナディア。私のわがままに付き合ってくれてありがとうございました」
「いえ、そんな。では、失礼します」
「ナディ」
「わっ」
手を引っ張られて体勢を崩しそうになり、一歩近づいたリュカとの距離に急に胸がどくどくと音を鳴らす。
「こ、公爵さま?」
恥ずかしくて下を向くナディアの顔は、リュカの指先によりたやすく上を向かされてしまった。恥ずかしさのあまり、ぎゅっと目をつむるナディアに、あのシトラスの香りと甘い口づけが落とされる。心臓の音がリュカまで届いてしまいそうなくらいうるさい。唇が離されても、リュカはそのままおでこをナディアのそれにこつんとくっつけて離れない。
「ナディ、目を開けて」
言われるまま、きつく閉じていた瞼をあければ、仮面のすぐ先にあるオパールグリーンの瞳に射貫かれてしまう。まつ毛までブロンドで美しい。
「あなたは、ブルーダイヤのようなとても美しい瞳をしていますね。いつも仮面の奥で見えないのがとても残念です」
頬に手が添えられ、鼻先が触れてーーーー
「ああああーーーーーー!」
大きな声にびっくりして、気づけば両手で力いっぱいリュカを押しのけて後ずさった。
緊張のあまり、固く結んだナディアの唇をリュカの親指がなぞる。何度か優しく撫でていた指は、しびれを切らしたかのように、ナディアの唇を押し開いた。下の歯に触れるリュカの指を感じて体の芯が震えた。
(また、この感覚・・・)
助けを求めるように目で訴えるも、恍惚としたリュカの色香に反対に当てられてしまう。
「そんな表情、他の男に見せてはいけませんよ」
そんな顔って言われても、どんな顔をしているのか、自分ではわからない。
「ん・・・っ」
再び交わされる口づけ。リュカの指に開かれたままだった口は、リュカの舌をやすやすと受け入れてしまう。リュカのそれは、柔らかく、そしてとても官能的だった。ナディアの舌を探したり、歯列をなぞったり、唇をついばんだり、リュカから与えられる刺激にただただ身を任せることしか出来なかった。
座っているのに、倒れそうな感覚になり、思わず両手でリュカの胸に縋ってしまう。そんなナディアを知ってか知らずか、腰に添えられた手に力が入る。
「す、すみません・・・・」
「いえ、私がいけませんでした。これからは加減します」
(なんだかそれって・・・・)
自分がまだまだだと言われている気がして、また顔に熱が集中した。これから先、リュカの相手が勤まるだろうか、と不安がナディアを覆った。
「なんて素敵な殿方かしら」
「まぁ、ベルナール公爵さまよ!こんなところでお目にかかれるなんて!」
街に到着して、リュカと並んで城下町を歩けば、すれ違う全ての女性がリュカに目を奪われているのが疎いナディアにでもわかるほどだった。そして、その視線は次に隣に並ぶナディアへと流れる。
「仮面なんか着けて高飛車な感じよね」
「一体どういうご関係かしら」
視線が突き刺さる。身なりこそ、リュカの揃えたものだからどこぞのご令嬢だが、実際は貧乏伯爵家でリュカに釣り合う家格とはとても言えない。
「迷子になるといけません、手を」
(こんなに輝いている人は見失いません)
心の中でつぶやきながらも素直に手をとった。自分は、今リュカの恋人(役)だから。街中には、たくさんのお店が立ち並び、いままでナディアが見たことのないものもたくさんあり、目を輝かせていた。可愛い雑貨の並ぶお店、庶民向けのアクセサリー専門店、マカロン、ショコラ、パンなど、甘く香ばしい香りもナディアの心を弾ませる。
「欲しいものがあれば教えてくださいね」
リュカにそう言われたが、欲しいなど口が裂けても言うまいと心に誓う。そんなことをリュカの目の前で言ったものならば、店の片っ端から買い集めかねない。それに、ひとつにとどめたところで、その値段はナディアの1日のお給金の額をゆうに超えているものばかり。ナディアにとっては贅沢品以外の何物でもなかった。
しかし、そんなことはリュカもすでに学習済みで、ナディアがものをねだることなどしないことは予想の範疇。美味しそうな匂いのする店や若い女性向けの店などに自ら足を運んでナディアと一緒に店内を物色した。そうすれば、ナディアは気が付くと夢中になって店内の隅から隅まで嬉々として見て回った。ショコラトゥリーやパティスリーでは、味見と言っていくつか買ってはナディアに食べさせた。恐縮しながらも幸せそうに頬張るナディアにリュカはとても満足げだった。
「公爵さま、今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
時間を忘れるくらい楽しく過ごした後、家まで送ると言ったリュカになんとか孤児院の近くで降ろしてもらった。
「私もです、ナディア。私のわがままに付き合ってくれてありがとうございました」
「いえ、そんな。では、失礼します」
「ナディ」
「わっ」
手を引っ張られて体勢を崩しそうになり、一歩近づいたリュカとの距離に急に胸がどくどくと音を鳴らす。
「こ、公爵さま?」
恥ずかしくて下を向くナディアの顔は、リュカの指先によりたやすく上を向かされてしまった。恥ずかしさのあまり、ぎゅっと目をつむるナディアに、あのシトラスの香りと甘い口づけが落とされる。心臓の音がリュカまで届いてしまいそうなくらいうるさい。唇が離されても、リュカはそのままおでこをナディアのそれにこつんとくっつけて離れない。
「ナディ、目を開けて」
言われるまま、きつく閉じていた瞼をあければ、仮面のすぐ先にあるオパールグリーンの瞳に射貫かれてしまう。まつ毛までブロンドで美しい。
「あなたは、ブルーダイヤのようなとても美しい瞳をしていますね。いつも仮面の奥で見えないのがとても残念です」
頬に手が添えられ、鼻先が触れてーーーー
「ああああーーーーーー!」
大きな声にびっくりして、気づけば両手で力いっぱいリュカを押しのけて後ずさった。