ナディアには両親と弟と妹がいる。
弟は7歳、妹は5歳とまだ幼く、家事手伝いすらままならないどころか、まだまだ手のかかる年頃。
長女のナディアはもうすぐ18歳になろうとしていた。
すでに結婚適齢期のナディアだが、自分に結婚は無理だとあきらめている。
その理由は、彼女の顔にあった。
残りの洗濯ものを干し終えて、ナディアは水を汲みに行った。
桶に水を入れ、その水面に浮かぶ自分の姿を見つめる。
鼻から上、仮面舞踏会で着けるような仮面をつけているその顔は、ナディアの本当の顔を映していなかった。
仮面の下、左のこめかみのあたりから左目を覆うように紫色の痣が広がっているのだ。
それは生まれつきだった。
子どものころは仮面など着けずに過ごしていたが、物心がつく頃には、周りの同年代の子どもから指をさされたり、親から遊んじゃいけないと言われ避けられたり、「呪われた子」と噂されるようになり、ナディアの両親が見繕ってくれた仮面を着けるようになった。
呪われた子を「嫁」に迎えてくれる奇特な人など現れるはずもない、と結婚という選択肢は端から持ち合わせていなかったし、ナディアを必要としてくれる孤児院や領地の人々がいることが何よりの救いであり居場所となっていた。