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 孤児院の子どもたちは、ナディアの持ってきたごちそうに大喜びしあっという間にぺろりと平らげてしまった。
 幸せそうな子どもたちを見て、ナディアまで幸せな気持ちになった。

「さぁ、みんな、勉強の時間にしましょう。外に出て」

 ナディアは、この子たちに時間の許す限り文字や歴史を教えていた。
 この子たちが大人になったときに少しでも生きていく糧となるように。
 自分たちが名ばかりの伯爵家であるがため、この子たちに苦労を強いてしまっているとナディアは自責の念に駆られている。
 食べることにも事欠く今は、勉強するためのペンも紙も買えないため、ここでは外の地面に木の棒で文字を書いて教えていた。
 そうまでしても、ナディアは孤児院の子どもたちに出来ることをしてやりたい一心だった。

「さ、この前教えた文字は忘れてない?」
「もちろん!ちゃんと練習したよ!」

 一番に手を挙げて得意げに言うのは7歳になったばかりのアーチュウだ。
 孤児院で一番やんちゃでいたずら好きで、世話役のリリアーヌも手を焼いている。
 アーチュウは転がっている枝を拾い上げると、地面に文字を書きはじめた。

 それを見て、他の子どもも思い思いに枝や石を手に取り文字や絵を書きはじめるのだった。


「アリスはこの前教えた詩を書いて見せて?」

ナディアに促され、アリスも枝を拾う。

「まだ、全部は覚えていないんだけど・・・」

 と言いながら、17歳のアリスはすらすらと文字を書いていく。
 数年前に両親を事故で亡くしたアリスはこの孤児院で最年長だった。
 ナディアと年が同じということもあり、今ではお互いになんでも話せる間柄だった。
 もうすぐ大人と呼べる年齢になるアリスの行く末をナディアは案じていた。
 孤児院で大きくなった子どもは、大体がどこかの家に貰われていくことがほとんどだが、その未来は決して明るいものではなかった。
 家族として迎え入れてくれる所は珍しく、その家の使用人や下働きとして朝も晩も働かされるのが関の山。
 年の近いアリスが不憫で仕方なかった。

 アリスには、いや、この孤児院の子どもたちにはみんな幸せになってもらいたいと、ナディアはいつも願っていた。

「すごいじゃない!あとは、最後の2文だけよ!」

 ついこの間教えたばかりの詩をほとんど覚えて、一字一句違えず書き連ねたアリスに感嘆の声をあげる。
 ナディアは続きを地面に書き連ねた。貧乏貴族だけれど、勉強は人一倍頑張ってきたナディアはその知識を惜しげもなくアリスに教えていた。
 そして、自分の知識が無駄にならず、こうして孤児院の子どもたちに分け与えることができる事に、喜び幸せを感じていた。

「お、やってるな~」

 声の方を振り向くと、孤児院の門の方から一人の青年が手を挙げながらこちらに歩いてきていた。