ようやく解放され、離れていくぬくもりとシトラス。閉じていた瞳を開ければ、「よくできました」とご機嫌に見つめ返すリュカ。

 かぁぁっと顔が真っ赤に染まるのが自分でもわかるほど、ナディアは恥ずかしさで埋め尽くされたのだった。

「まだ食べ足りませんが、今日はこのくらいにしておきましょうか」

 またしても理解不能なセリフを言い、リュカは何事もなかったかのように前に向き直る。
 対するナディアは、まだうまく呼吸が出来ず、馬車が停まるまでそのまま隅に背中を預けていた。
 ナディアは、半ば放心状態の頭の中でこう思った。


ーーー社交界一の色男、恐るべし。