「あ、あの、これは、一体・・・」
「あなたのドレスを仕立てるんです」
「こ、公爵さま、困ります!そんなお金持っていません!」
こんな都のど真ん中にある高級洋服店のオーダーメイドドレスなど、貧乏貴族のナディアに手の届く代物ではない。みるみる青ざめるナディアに、リュカは笑みを浮かべて言う。
「心配ご無用。これは私からのプレゼントです」
「そんな、高価なもの尚更頂けません!」
慌てふためくナディアをよそに、「何色が好きですか?」「好きな宝石はありますか?」「アクセサリーはやはりゴールドでしょうか・・・、でもシルバーも似合いそうですね」などと独り言のようにつぶやくリュカ。
店の者はしめたと言わんばかりに次から次へと、見るからに高価な生地やアクセサリー、靴などをリュカの前に並べていき、リュカはそれを一つ一つ品定めしながら選んでいった。
採寸が終わると、今度はリュカが選んだ宝飾品や靴の試着に追われる。
「この色はいまいちですね」
「ルビーよりもサファイアにしましょう。パールのピアスとネックレスも着けて」
とリュカの注文通り、着せ替え人形のように、着けたり外したり、履いたり脱いだりを繰り返した。
全てが終わったのは、お昼過ぎ。
ナディアは、リュカが選んでくれたドレスに着替え、宝飾品を身に着け、来た時とは何もかもが違う姿に変えられていた。仮面さえも、だ。
「よく似合っていますよナディ」
リュカは、頭のてっぺんからつま先までを一通り眺めて満足そうに言った。
そのまま、リュカにエスコートされて馬車に乗り込むとふわりとリュカのオードトワレが香った。
レモンをベースとしたシトラス系、トップノートはジャスミンだろうか、その香りはほんの少しの甘みを含んでさわやかに鼻先をかすめていく。
隣り合わせに座ると、狭い馬車ではリュカと体が触れ合うくらい近くになり急に緊張してしまう。
若い男性と関わりの無いナディアは、どう接すればいいのかわからない。
ふわふわなドレスをきゅっと握りしめた。
こんな贅沢なドレスを着る日が来るなんて信じられなかった。
それにリュカから贈られたものは、今身に着けているものだけではない。
あと数着、今日リュカが選んだ生地のドレスや靴と宝飾品一式が一週間後には出来上がり、ナディアの家に届くらしい。
その総額を想像しただけで、ナディアは震えあがった。正確には、いくらになるのか、ナディアには見当もつかない。
「公爵さま・・・せっかくのご厚意を申し訳ありませんが、こんな高価なものは頂けません・・・」
贈り物を拒むナディアにリュカは「嬉しくないのですか?」と最初は不思議がっていたが、幾度と無く心底困った顔で受け取れないと言う彼女を見かねた彼は少し考えた後こう言った。