着いた先は、都の繁華街にある服の仕立て屋だった。
 てっきりリュカの屋敷に行くと思っていたナディアは拍子抜けをくらった気分で、馬車から降り立つ。
 店の中から店主らしき人物がナディアに笑顔で駆けつけてきた。

「ナディアさま、お待ちしておりました。ささ、中へどうぞ。公爵さまがお待ちでございます」

 導かれるまま店内に入ると、奥の方にリュカの姿があった。
 椅子に腰かけ、退屈そうに頬杖を突くその姿はおとぎ話に出てくる王子様そのもの。
 伏目がちのオパールグリーンの瞳には、長いまつげの影が落ちて愁いを帯びているかのようにさえ見て取れる。

 足音に気づいたリュカは、ナディアを見ると「やっと来ましたか」と言いながら片手をあげた。
 その顔は、怒っている風でもなく、むしろナディアにはなんとなく機嫌が良さそうにさえ見えた。

「お待たせしてしまい申し訳ございません!」
「私も用を済ませていたところですのでお気になさらず。では、早速始めてもらいましょう」
「かしこまりました、公爵さま」

 リュカは店主にそう告げると、また頬杖をついた。こちらを眺めるだけで椅子から動こうともしない。
 ナディアが不思議に思っていると、店の奥から女性の店員が出てきて、ナディアの体をメジャーで採寸し始めた。