「ナディ!一体どういうことなの?ベルナール公爵さまが馬車をよこすなんて」
「お前、いつベルナール公爵さまとお知り合いになったんだ?!何か粗相をしたんじゃないだろうな?」

 ナディアの姿を認めるや否や詰め寄る両親を交わし、逃げるようにナディアはそのまま馬車に乗りこんだ。

「お母さま、お父さま、これには深いわけが・・・それは帰ってきてから話しますね!お待たせしてはいけませんので、行って参ります」

 窓から顔をだしてそれだけ言うと、馬車は軽快に走り出した。
 馬車なんて乗ったのは、いつぶりだろうか、とナディアは記憶を辿る。
 子どものころはまだもう少しお金に余裕があったような気もする。
 事実子どものころは家に使用人が居たし、馬車も使っていたが、今は父が使う馬の一頭だけが厩舎にいるだけだ。
 カッタンコットンと規則正しい馬の駆ける音とガタガタと揺れる馬車の座り心地が懐かしい。
 これから向かう先を思うとどんよりと沈んでいくナディアの気分を少しだけ上向きにしてくれた。

「いけないいけない。これもお給金を頂くためのお仕事。しっかりお勤めしなくちゃ!」