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  重たい瞼をゆっくりと持ち上げれば、いつもと変わらないシミだらけの天井が目に映る。
 眠り足りない。
 体が異様に重たい。
 けれども、時は残酷にも待ってくれない。
 一日はもう始まっている。

 ナディアは、軋む体を無理やり起こして身支度を始めた。
 仮面は、鏡台に置いたまま部屋を後にする。
 いつも家では朝、仮面は必要無かった。
 この家には家族以外誰も居ないから、隠す必要がないのだ。
 かまどに薪をくべて火を入れ、顔を洗いに水汲みへ。
 冷たい水で顔を洗えば、いくらか目が覚めた。
 それと同時に夜中の事が鮮明に蘇る。

「こいびと・・・、わたしが?ベルナール公爵さまの・・・」

 何を考えているのか、あの人は。
 いや、何も考えてなどいないのだ。
 ただの暇つぶし、気まぐれなんだ、きっと。
 お金持ち貴族の考えることなど、貧乏貴族の自分にわかるはずがない。
 ナディアは、もう一度昨夜の出来事を頭の中で反芻してみた。