「リュカさま……どうして好きになるななどと約束をさせたのですか……?」

 ランチの後、中庭に面するガラス張りの部屋で二人肩を並べてくつろいでいる時、ナディアはなんとなく気になったことを聞いてみた。

 見上げれば、意地悪い笑みを浮かべたリュカと目が合う。

「人という生き物は、制約を受けると反発したくなる生き物なんです」
「……ということは、わざとですか?私に好きになって欲しくて……?」

 あの時から、リュカは少なからず自分に好意を持っていてくれたということが、ナディアはたまらなく嬉しかった。ナディアの嬉々とした顔に珍しくたじろぐリュカを、ナディアは見逃さなかった。

「えっ、……あの時からですか?初めてお会いしたあの時から、リュカさまは私のことをお気に召してくださったのですか?」
「……そうでなければ、あんな真夜中にわざわざ待ち伏せなどしません」

 確かに、言われてみれば……、とナディアは思い出す。夜更けにナディアを先回りして待ち伏せしていたのだ。

「不覚にも、あの日、あなたに一目で恋に落ちました」

 二度目の愛の告白に、今度はナディアがたじろぐ番となる。リュカの真剣なまなざしは、ナディアの心臓を鷲づかみにする。どくどくと体中の血液がものすごい速さで流れていくのを感じた。

「本当は、最初から契約などするつもりは毛頭なかったのですが、あなたが首を縦に振ってくれませんでしたからね」
「あ、当たり前です!あんな風に脅されては、誰だって警戒するに決まっています」
「そうまでしても、あなたが欲しかったんです」

 リュカは、ナディアの髪を耳にかけながら耳元に口をよせて、いつもの甘い声で「許してください」と懇願した。

 ーーー許すも何もない。感謝しかなかった。誰かを好きになることも縁遠いものだと諦めていた自分に、こんな気持ちを与えてくれたのだから。

 返事の代わりに、ナディアは自分の唇とリュカのそれとを重ねた。触れるだけの、ナディアの精一杯のキス。目を開ければ、驚くリュカと目が合い、自分のしたことの恥ずかしさに襲われる。

「もう一度、してください」
「む、無理です」
「なら、私がします」
「……んんっ……!」

 結局、いつものように主導権はリュカが握るのだった。