手を引かれ、強まるシトラスの香り。ふたつのシトラスが重なり、ひとつの香りとなった。今ではそれがナディアの一番好きな香りだった。

「好きですナディア。あなたがたまらなく愛しい」

 一番聞きたかったその言葉に、ナディアのアイスブルーの瞳が見開かれた。その拍子に目尻からあふれた涙が頬を伝う。

「リュカさま……」

 リュカも自分を好きでいてくれたことが、夢のようだと思った。

「で、では……まだおそばにいさせて貰えますか……?」
「えぇ、もちろんです。誰にも渡したくない、……私だけのナディアでいて欲しい」
「っ……、リュカさま……、私も、リュカさまが、好きです……っ、心からお慕い申し上げておりま――」

 言い終わる前に、ナディアの言葉ごと熱い口づけに飲み込まれた。

 食べられてしまいそうなくらいの口づけにナディアは喜びを感じ、一心に受け止める。初めて通じ合った心は、二人の枷をいとも簡単に取り払い、互いをむさぼるように求め合った。

 先に根をあげたのはもちろんナディア。くずおれる彼女の体をいともたやすく抱きあげたリュカは、先ほどのソファにナディアをそっと下ろすと、自身も片膝を床についた。

 頬を上気させたナディアの手を取り、指の背に口を寄せる。そっと触れれば、ナディアの顔はますます赤く染め上がった。

「不安にさせて、すみませんでした……。思いを告げて拒まれるのが怖かったんです」

 情けないですね、と自嘲するリュカにナディアは目一杯顔を横に振る。

「――ナディ」

 愛しい人の口から放たれる自分の名前は、どうしてこんなに甘い響きだろうか。
 ナディアは、目の前のオパールグリーンの瞳を見つめ返す。真剣なまなざしで、リュカは言う。

「私は、この身が朽ち果てるその時まで、あなたを愛し、慈しみ、守ると誓います」

 まるでプロポーズのような誓いの言葉をナディアは一言一句違えず心に刻む。

「私のそばにいてください、ナディ」

 ナディアは、リュカの首ったけに抱き着いた。

「はい、ずっと、ずっとおそばにいます――」

 そう言って、愛する人の香りに包まれながら、ナディアはこの上ない幸せに目を閉じた。










ー 終 ー