「――待ちくたびれました」

 そう言ってリュカは、掲げたまま固まったナディアの手を握ると、そのまま中へと引き入れた。「こちらへ」と書斎の中央にあるソファに促され、一緒に腰掛けると、リュカは正面からナディアの目を見つめた。

 オパールグリーンの透き通るような瞳に見つめられて、ナディアの胸はドキドキと早鐘を鳴らす。仮面がないだけで、まるでいつもよりも輝きが増して見えて緊張が走ってしまう。

「私の前で、仮面をする必要も、化粧をする必要もないのですよ、ナディア」

 ゆっくりと、優しく言葉を紡ぐリュカ。

「もちろん、無理に仮面を外す必要もありません。あなたがしたいようにすれば、それでいいのです」

 そうだ、リュカは、いつだって自分を尊重してくれる。ナディアは改めて思った。
 リュカとの出会いは、強烈で一方的だったけれど、その後はいつもナディアの意志を尊重してくれていたことを、ナディア自身がよくわかっていた。

 触れ合いですら、嫌なら拒んでいい、と常々言っていた。

(リュカさまは、いつだって優しいもの)

 だから、こんな自分でも受けいれて優しく接してくれるのだと、ナディアは思っている。

「ありがとうございます、リュカさま。でも、私は、リュカさまの前では仮面を取るように心がけたいと思っています」

 ――忌々しい。

 ローズの声は、今も呪いのように頭に響き、ナディアをがんじがらめにしている。けれども、囚われたくないとも強く願っている。せめて、自分のことを信じてくれている人の前では姿を偽ることはやめたいと、思い始めていた。

「そうですか、私としてはあなたの美しい顔が見れるので喜ばしいことですけど、無理は禁物ですよ?」
「は、はい……」

 リュカの甘い言葉に頬を染めるナディア。そんなナディアをリュカは愛おしそうに見つめる。その目には言葉通り喜びが見て取れた。

「――そうだ」

 思い出したように、リュカはテーブルの上の化粧箱からふわふわしたなにかを取り出すと、ナディアの肩にかけた。真っ白な毛皮で作られたケープだ。

「あ、あの……?」

 上質な、肌触りのよい毛先がふわふわとナディアの頬をなでていく。くすぐったくも優しい感触にナディアは目を細めた。