「――楽しかったぁ」

 バザーからの帰り道、ナディアの隣を歩くノアがしみじみと言った。
 家まで送るという申し出を断ったのだが、「話があるんだ」とノアが真剣なまなざしで言うものだからこうして一緒に歩いている。

(話ってなんでしょう……?)

 考えたが思い当たる節は、孤児院がらみの相談くらいしかなかった。

「それはよかったです」
「アンも楽しそうだったし」
「そうですね、少し笑顔が見れて安心しました」

 新しく孤児院に来た少女、アンを連れていったのは正解だった。お祭りムードの中、アンも目を輝かせていたのを思い出して胸がほっこりとした。

「お皿も買えてよかったね」
「はい、ちょうどいいサイズのものがあって助かりました」
「ナディアのそれは、家族へのプレゼント?」

 それ、とは手提げ袋に入っている家族へのお土産のこと。レオンとシャルロットには手袋、母にはショールと父には襟巻を買った。どれも、マグリットさんの手作りで、冬の始めに毎年開催されるこのバザーでは、早く買いにいかないと売り切れてしまうほどの人気だ。

 彼女と懇意にしているナディアは、あらかじめ注文して取り置きをお願いしていたから、目当ての物を買い終わった後に行って受け取ってきたのだった。

「えぇ、冬支度です。毎年マグリットさんにお願いしてるんです」
「急に冷えてきたしね」

 11月に入り、日に日に寒さが厳しさを増すにつれ水は冷たくなり、炊事洗濯がツラい季節がやってきた。かじかむ指を握りしめたのはついこの間のこと。

「……ノアさま?」

 坂の上にナディアの家が見えてきたところで、ノアが歩を止めた。ナディアは、一緒に立ち止まり隣を見る。ノアの深刻そうな表情になにごとかと首をかしげた。

「仮面は、外さないの?」