マリアは、「あなたたちは先に行っててちょうだい」とリュカとライアンを追い払うと、ナディアの両手を取り、自身の手で包み込むように握った。

「ナディアさん」
「は、はい」

 ナディアの瞳が戸惑いに揺れる。

「――今日は、リュカと一緒に来てくれてありがとう。リュカのあんな穏やかな顔を見たのは久しぶりで、どうしてもあなたにお礼が言いたくて」
「お礼だなんて、そんな、私はなにも」

 ナディアは、顔を横に振って否定する。いつも与えられてばかりで自分はなに一つ返せていないのだと、ナディアはいつも負い目に感じている。そんなナディアの謙遜をマリアは「いいえ」ときっぱりと言い放ち否定する。

「これまでこのパーティに自ら女性をエスコートしてきたことが一度もないあの子が、今日あなたを連れてきて、私に紹介してくれたのよ。しかも事前に手紙で知らせてまでして。私、本当に驚いたわ」

 知らなかった事実に、ナディアも驚き目を見開いた。

「あなたを見るあの子の幸せそうな顔ったら……! 見てるこっちが赤面しちゃうくらいだもの!」

 リュカの優しさはいつだって自分に向けられていることくらい、ナディアもわかっていた。けれど、それはリュカの性格による優しさであり、周りに向けられるそれとなんら変わらないものだと思っているナディアは、マリアの言葉が信じられない。

「あの子が小さい頃から見ている私がそう思うんですもの、間違いなくあなたはリュカの特別なのよ、自信もってちょうだい」

 ね! と念を押され、ナディアは否応なしに首を縦に振り、見送ってくれるマリアに再度お礼を言ってリュカが待つ馬車へと向かった。