「あの高慢ちきなジラール公爵のお嬢さまに『見目麗しい』って言わせるだけあるわ! 真っ赤になったお嬢さまの顔ったらおかしくって。またいじめられたら私に言いなさい、あの娘が二度とドレスを買えないようにしてあげるから」

「そんなことをしたら懐に響くんじゃありませんか、夫人」

 そう茶化したのはライアン。

「あら、ロスシー商団も見くびられたものね」

 ロスシー伯爵は、この国でも有数の商団を営んでおり、夫人はそれを利用してドレスや宝飾品などを扱う商店を経営している。富裕層をターゲットとしたオーダーメイドのドレスを主流に流行りの最先端を行く人気のブランドとなっていた。

「お得意さまなのは認めるけど、あんな小娘一人居なくなったところで痛くもかゆくもないわ。――あら、ナディアさんのそのドレスもうちで作ったものね。あなたがあつらえたの? リュカ」

 そうなのか、とリュカを見れば「えぇ、そうですよ」と頷く。

「姉上の店以外で買うなど、怖くてできませんよ」

 と苦笑するリュカに、マリアは満足げに笑った。

「気に入ったわ。決めた! ナディアさんのドレスはこれからは私が見繕うわ!」
「……いくら姉上でも、それは承服しかねます。私が責任持って用意しますのでご心配には及びません」

 ぶすっとしてリュカが言えば、マリアはふふん、と鼻を鳴らす。

「あぁら、流行の最先端を知り尽くす私のセンスにあなたが及ぶとでも?」
「で、ですが、そもそも女性に贈り物をするのが紳士のたしなみだと口酸っぱく私におっしゃっていたのは姉上ですよ」
「えぇ、そうよ。けどプレゼントはなにもドレスだけとは限らないわ。安心しなさい、あなたの意見もすこーしは聞いてあげるから」
「……」
「――あははは! さすがのお前も夫人には敵わない、諦めるんだな!」

 二人のやり取りを見守っていたライアンが溜まらず笑い声をあげた。リュカは二人から顔を背けて息を吐いた。

 そのやり取りに、ナディアの顔も自然と綻ぶ。気づけば、先ほどまでの負の感情は消え去り、心は落ち着いていた。楽しく穏やかな時間はあっという間に過ぎ、ナディアはリュカとライアンと共にお暇の挨拶を夫妻にして会場を後にする。

「ナディアさん、待って」

 呼ばれて足を止めれば、後ろからマリアが息を切らして走ってきていた。