◇◇◇
――……数日後。
「藤春、修復進んでる?」
「あ……、はい」
5限目も終わった時刻、研究室でお茶を飲んでいると先輩がやって来て、開口一番そう尋ねる。
箱の中から出てきた紙の束のことを思い、私の返事は歯切れの悪いものになってしまった。
「どうした?ああ、あんまり史料価値高くないやつだったか」
「そう、ですね」
先輩の言葉通り、“あれ”に史料としての価値は無きに等しい。
そこまで古いものでもなく、まだ全てが読めるわけではないが、書いてあることから新しい発見も何もないだろう。
村外れの林の中にある、湖の水底。
沈められた箱の中にあった、大量の紙。
――……そこに綴られていたのは、ある女性の愛と哀だった。
「先輩」
「ん?」
「あの村って、昔は結構大きかったんですか?」
「ああ、うん、確か。水源豊かで農地としてもかなり良いし、山を越えて来る人たちと大きい街の中間地点だったから大きい商家もあったって聞いたかな。交通機関が発達して人があまり通らなくなってからは、そういう商家は街に出てしまって、段々規模が小さくなっていったんだと思う」
「そうなんですね」
「うん。それがどうかした?」
「いいえ、ちょっと……」
そう?と首を傾げたものの、それ以上尋ねることなく先輩は作業室へ入っていく。
お茶を飲み干し、私も立ち上がった。