いつも唐突な先輩が相も変わらず唐突にそう言ったのは、今朝のことだった。

 まだ空が明るくなりきらないうちに一人暮らしの我が家を強襲し、寝ぼけ眼でいる私が何とか着替えを済ませたところで車に乗せられる。

 低血圧で寝起きが悪い私の思考がまともに働き始めるころには、我が家から十数キロは離れてしまっていた。


「先輩、今度は何ですか?」
「言ったよね、湖に行くって」
「同意した覚えはないのですが」
「半分寝てたから仕方ない」
「起きるのを待ってくれませんか、と毎度言っていますよね、私」
「藤春が起きるのを待ってる時間がもったいないよ」


 飄々と笑う彼は、大学の1つ上の先輩だ。

 変わり者が多いと言われている学部の中でもとりわけ変わり者として有名で、ざっくり言うと「研究バカ」である。

 バカと付けど、それには常人を超えた集中力と熱心さに対する畏敬(いけい)の念が含まれている。

 本人曰く「知的好奇心が溢れているだけ」らしいが、溢れているという言葉が生易しく聞こえるくらいに彼の知識欲は凄まじいものがあった。

 興味範囲が中々に広い上、浅く広くではなく深く広く知識を持っている、能力面で言えば間違いなく非常に優秀な先輩だ。

 卒業を数か月後に控えた4年生の彼は、早々に卒論を書き上げており大学院への進学も決定しているため、現在は好きな研究に没頭している。