「サン……リノ、ピーロランド……?」

ネズミの国じゃなかったことに、まず驚いた。あそこは鳴海でも知っているテーマパークで、カップルでも行くことを知っている。しかし、このテーマパークは初めて知った。鳴海の反応に梶原はやっぱりな、という顔でこれ見よがしに説明した。

「此処は女子の夢がいっぱい詰まった、いわば女子の夢の国なんだ。女子は二頭身のぬいぐるみが大好きだろ。そういうキャラクターの生みの親がサンリノだ」

ほう、そうなのか。悔しいけど凄く勉強になる。鳴海はやはり殊勝に頷いて、入場券を買おうとした。それを梶原が止める。

「仕方ないからおごってやる。これも一般人のデートとして、当然のことだ」

いちいち気に障るけど、今日は鳴海の一般人擬態の為に世話を焼いてくれているのだから、おとなしく頷いておくしかない。梶原が買ったチケットでいざパークに入場する。其処はネズミの国とはまた違った(鳴海は行ったことはないけど)、鳴海の知っている空間ではなかった。

まず、圧倒的に女子と子供が多い。其処此処に、白目は要らないのか? と思うようなつぶらな黒目だけのキャラクターが溢れている。施設の色彩、キャラクターの色合いは女子と子供に馴染みやすいと思われる、圧倒的ピンクに代表されるようなかわいらしいパステルカラーが多い。鳴海も、ネズミの国の代表カップルを知っている程度の知識と同様の知識で、キッティの名前は知っていたが、他のキャラクターの名前は知らない。というか、サンリノがキッティの生みの親だという事も知らなかった。

「耳の垂れてる白いのがシナロール、黄色いのはポヨポヨプリン、ピンクの帽子を被ってるのがマイレディ、黒いペンギンはクロッピ……」

梶原はすれ違うキャラクターたちの名前をいちいち教えてくれた。凄いな、鳴海に一般人のデートをさせる為に、キャラクターの名前まで調べてくれたのか。(鳴海の求めるものとは違うけど)その心配りに、少しだけ感動する。なんだ、強引なだけのやつじゃなかったんだな。流石モテる男、梶原。女子を連れたデート捌きも手慣れたもんだな!

「しかし、これだけキャラクターが居るとカップリングをしたくなるけど、キッティとシナロールではやっぱり萌えないわ……」

ぽろりと脳内思考が口から洩れた。すると梶原は目を吊り上げて鳴海を振り返った。

「お前は!! そう言う事にしか考えが及ばないから駄目なんだよ!! 擬態しろって言ったろ! 今日が終わるまで、カップリングとか考えるなよ!!」

ええー、腐女子は息をするようにカップリングを考える生き物だから、それは無理だ。しかし目の前で繰り広げられる、圧倒的女子受けの『かわいい』の世界では、やはり鳴海の萌えセンサーは働かなかった。

「……そうね、私の目から見ても、キッティとシナロールがデキてるようには、まだ見えないし、取り敢えず、今日は大人しくしてるわ」
「今日だけじゃなくて、永遠にしてろよ!!」

確かに一般人はカップリングしないと思うけど、それにしたってそんなにムキにならなくたっていいような気持ちもするが、やっぱり一般人の梶原から見て息をするようにカップリングをしてしまう腐女子の性(さが)は理解できないものなんだろうな、と思い、鳴海はやはり、分かったわ、と頷いて黙った。