今まで帰り道が途中まで一緒だったという事は、勿論卒業式を終えてから帰る道だって一緒だという事だった。鳴海は梶原に手を握られたままで歩いていて、やはりリアルの恋が恥ずかしくて、梶原から逃れようとした。

「か、かじわら……、て、……はなして……」

自分は梶原に対して、こんなにも弱々しい声を出すような腐女子だっただろうか。それでも、繋がれたてから感じる梶原のぬくもりにふにゃふにゃになりそうになりながらも、鳴海は梶原に懇願した。梶原はちょっとむっとした顔をして、「ヤなの?」と問うた。

「ヤ……、とかでは、ないんだけど……、……だって、梶原だって、今まで私に対して契約の時からずーっと『好き』って思い続けてきたわけじゃあ、ないんでしょ? 私たちは同志、オタク仲間だったじゃない……。急に間合いを詰められても……」

慣れないぬくもり、慣れない距離に鳴海が戸惑っていると、梶原は「しかたねーなあ」と言って、やっと手を放してくれた。

「確かに同志の時間は長かったさ。でも、好きだと思ったら、色々考えるのが普通だろ?」
「は……、はあ!? い、いろいろって、なによ!! やだよ、そんな……」

そんなの、とまで言わせずに、梶原は鳴海の唇を塞いだ。一瞬で離れたそれは、しかし、鳴海の頭を真っ白にするには十分な出来事だった。

「!! !! !!!」
「当分はこれで我慢しといてやる。でも、俺は東京行っちまうから、こっちにいる間はぎっちりデートしようぜ」

にやにやしながら言う梶原に対して、鳴海は言葉が継げない。はくはくと息を繰り返した。

「馬鹿――――っ!!! もう絶交だっ!!!」
「絶交って、子供かよ!」
「だって梶原が意地悪するから!!」

恥ずかしさが振り切れて怒りに変わっている鳴海に、梶原が拗ねた顔を見せた。

「じゃあ、金輪際会わないつもりかよ」
「そ……っ、そういうわけじゃ、ないけど……」

言葉尻が弱くなった鳴海に、梶原が笑った。

「はは、期限直せって。東京でお前の推しのグッズ、代わりに買っといてやるからさ」
「基本的に推しには自分で愛を注ぎたいから、そういうのは要らない。努力の末に入手するという過程も、グッズに愛情を注ぐ一因になるから。それよりホテルのデザートブッフェが良い」
「またリッツカートルトンかよ!! あそこたけーんだよ!!」



梶原の叫びが響き、鳴海の笑い声が青空に溶けた……。